研究課題
研究活動スタート支援
本研究では出来事の被害者に「傷つきを語る」営みを要請する社会的な力の作動を検討するため、2つの対象について検討を行なった。ひとつは、「証言集」としての村上春樹『アンダーグラウンド』(1997年、講談社)について、もうひとつは被害の語りの収集と呈示の具体的な実践についてである。これらのアーカイブ実践を支える論理を抽出し、「誰にとって、なぜ良いのか(あるいは良くないのか)」という視角からのアプローチを行った。前者は論文として発表し、後者は出来事の時代や地域等の詳細な比較検討を行ったのち発表する。
社会学
本研究は、「傷つきを語る」という行いの意義をめぐって、「社会における効用」と「当事者における効用」とが時に混同して語られていることを指摘し、それらを弁別して検討する作業を通して、被害の語りをめぐるアーカイビングの理論的基盤の整理に貢献した。この成果は、様々な分野で生起しているアーカイビングの理論化や技術開発の意義を再照射するに留まらない。「語り」を要請する社会機制についての考察は、「傷」の救済や回復をめぐる学術的・社会的課題において、常に立ち戻るべき「当事者」の視座を知らせるものである。