研究課題/領域番号 |
17H07032
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
遠藤 のぞみ 奈良県立医科大学, 医学部, 研究助教 (90802819)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | マウスモデル / 集団飼育 / 社会性 / 社会行動 / 母子分離 / 環境要因 / 自閉症 / 行動神経科学 |
研究実績の概要 |
幼少期の虐待経験が成長後の行動に影響を与えることは広く知られている。その生物学的メカニズムを明らかにするため様々な動物モデルを用いた基礎研究が展開されてきたが、養育環境が社会的な集団生活における行動にどのような影響を与えるかについてはこれまで検証されていない。本研究の目的は、申請者が近年開発した社会的集団における行動解析が可能な新システムMAPSと、脳領域特異的に神経活動の制御が可能な化学遺伝学を用い、[幼少期の養育環境]-[社会的集団での行動表現型]-[責任脳領域]の関係を明らかにすることである。 この目的のため、まずは現所属である奈良医大においてMAPSの導入と立ち上げを行った。MAPS立ち上げの過程では、自閉症モデルマウスの一つであるBTBRマウスを用い、その行動表現型を検証した。その結果、BTBRマウスは対照マウスに比べて暗期において顕著な低活動性を示すことを見出した。従来のオープンフィールドを用いた先行研究では、BTBRマウスは対照マウスに比べ活動量の亢進を示すことが報告されており、我々の結果とは反する。この結果から、BTBRマウスは新奇環境と十分に慣れた社会的集団環境では異なる行動表現型を示すと考えられる。このことは、自閉症の発症メカニズムや治療方法の開発にあたり、社会的環境における長期的な行動解析の必要性を示唆するものである。 今後は母子分離マウスについて同様に社会的環境における長期的な行動解析を実施し、BTBRマウスの表現型と比較することで、母子分離マウスの行動学的特徴を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前所属在籍中に開発したMAPSを現所属である奈良医大に導入し、立ち上げをおこなった。奈良医大にて初めて導入した実験環境制御BOX (温湿度、換気、照明管理および防音仕様)に予想外のトラブルがあり、想定以上に時間を要したものの、最終的には実験系として立ち上げることに成功した。 MAPSを用い、自閉症モデルマウスであるBTBRマウスの社会的集団環境における行動解析を行った。対照群としてはC57BL/6Jマウスを用いた。実験ケージに互いに未知の成獣雄マウス4匹を導入し、連続して4日間、録画を行った。マウスの組み合わせはB6マウスのみのB6-only、BTBRマウスのみのBTBR-only、2匹ずつ同居させるB6-BTBR-mixの3条件である。その結果、BTBRマウスは暗期においてB6マウスに比べ低い活動量を示すことが明らかとなった。このBTBRマウスの低活動性は活動量の多いB6マウスと同居しているmix条件でもみられたため、ケージメイトの特性には影響を受けない表現型であることが示唆された。社会性行動としては、他の3匹とは離れ、1匹で過ごす時間を定量した。その結果、BTBRマウスは実験開始直後の新奇環境において、1匹でいる時間がB6マウスに比べ長く、他マウスへの依存的な傾向が見られた。現在、これらの結果をまとめ、投稿にむけて準備中である。 MAPSの立ち上げに時間を要したため、母子分離マウスの行動解析は次年度に繰り越すことした。また、Creマウスを用いた脳領域特異的な化学遺伝学的手法については、当初新しくCre系統を導入する予定だったが、既に当研究室に導入済みUcn3-creマウスに切り替えることで時間的な節約を図った。Ucn3-creマウスは内側偏桃体にCreの発現があることが報告されており、実験計画に大きな変更はない。現在、実験に必要な匹数を確保するため、交配・繁殖を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
1) 母子分離マウスの作成とMAPSによる行動解析 C57BL/6マウスを交配し、妊娠・出産させる。出産日を0日目とし、生後1日目から14日目にかけて3時間/日、母マウスや同腹仔マウスから隔離する。対照群として母子分離を経験しない通常飼育のマウスを用意する。生後21日目で離乳させ、雌雄を分けて3-5匹/ケージの標準的な飼育環境にて飼育する。以降の実験では雄マウスを用いる。MAPSによる行動解析を行い、幼少期の母子分離が社会的集団における行動に与える影響を検証する。 2) DREADDによる神経活動制御とMAPS行動指標の検証 DREADDは、神経細胞に変異型ムスカリン受容体(hM3Dq/hM4Di)を発現させ、その人工リガンドであるCNOの投与により神経細胞を活性化/抑制化する化学遺伝学的手法である。本研究では、Cre依存的にhM3Dq/hM4Diを発現させるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター(AAV-synapsinI-FLEX-hM3D/hM4Di-mCherry)を用いる。脳定位固定装置を用いたAAVベクターのマイクロインジェクションを習得する。本研究室に導入済みのCreマウスを用い、まずは扁桃体に対し、AAV-hM3DあるいはhM4Di-mCherryのマイクロインジェクションを行う。脳領域の特異性およびCNOの投与による神経細胞の活性化もしくは抑制化ができているかは、免疫組織化学によりmCherryおよび神経活動マーカーの発現解析により確認する。AAVベクターを扁桃体にマイクロインジェクションしたマウスを用い、MAPSによる行動解析を実施する。扁桃体の活性化あるいは抑制化がそれぞれ各行動指標にどう影響したかを検証する。 3) DREADDに行動表現型の回復実験 DREADDによる脳領域特異的な神経活動レベルの制御を行い、母子分離マウスの行動表現型を回復できるか検証する。
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