研究実績の概要 |
幼少期の虐待経験が成長後の行動に影響を与えることは広く知られている。その生物学的メカニズムを明らかにするため様々な動物モデルを用いた基礎研究が展開されてきたが、養育環境が社会的な集団生活における行動にどのような影響を与えるかについてはこれまで検証されていない。本研究の目的は、申請者が近年開発した社会的集団における行動解析が可能な新システムMAPSと、脳領域特異的に神経活動の制御が可能な化学遺伝学を用い、[幼少期の養育環境]-[社会的集団での行動表現型]-[責任脳領域]の関係を明らかにすることである。 我々はまず、MAPSを用いて離乳後の成育環境が成長後の社会的集団における行動に与える影響を検証した。その結果、隔離飼育で育ったマウス同士では寄り添い行動が減少すること、また、隔離飼育マウスと集団飼育マウスを同居させることにより、隔離飼育マウスの表現型が回復することなどを明らかにした[Endo et al., 2018]。次に、自閉症モデルマウスの一つであるBTBRマウスを用い同様の解析を行った結果、BTBRマウスは対照マウスに比べ暗期において顕著な低活動性を示すことを見出した。しかしながら、BTBRマウスは従来のオープンフィールドによる行動試験では、先行研究の報告と一致し、活動量の亢進を示した。この結果から、BTBRマウスは新奇環境と十分に慣れた社会的集団環境では異なる行動表現型を示すと考えられ、MAPSが精神疾患モデルマウスの本来持つ表現型を同定するのに有効であることを示した[Endo et al., in press]。さらに、母子分離マウスについて社会的環境における長期的な行動解析を実施し、1匹で行動する時間が減る、指向性の高い場所の占有時間が減るといった行動表現型を見出した。今後はこれらモデルマウスの行動表現型の根底にある神経基盤の解明にとり組む。
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