食道扁平上皮がん症例におけるcirculating tumor DNA(以下ctDNA)の遺伝子変異と予後の関係の観察については、平成29年度に引き続き症例の集積を行い、droplet digital PCR(ddPCR)法を用いたctDNAの解析により得られた遺伝子変異・発現増幅の特徴を解析しました。 遺伝子変異の検出は研究計画の際に想定していたよりも困難でした。具体的には遺伝子変異の変異callingの閾値の設定が難しく、どれくらいの変異頻度をもって「変異あり」と決定するかという問題があり、閾値設定のために患者正常組織として末梢血単核球細胞をddPCR法にて解析し、変異の疑いがあるサンプルと比較検討するなどの工夫を行いました。 最終的に食道扁平上皮がん症例30例について検討し、各症例で術前化学療法(NAC)前、NAC1コース後、NAC2コース後、食道がん手術直前、食道がん術後7日目の5ポイントにおいて採血を行い、150サンプルに対するddPCRによる変異遺伝子解析を行ないました。そのうち明かな遺伝子変異を認めた症例はわずか1例でした。この症例においてはNAC前においてPIK3CA遺伝子の変異(E542K)を認めましたが、NACの実施により変異頻度が減少傾向となり、食道がん術後7日目には変異の消失を認めました。本症例は、臨床上化学療法が著効し部分寛解を得られた症例で、術後約1年半経過時点で無再発生存中です。 今回のctDNAを対象とした食道扁平上皮がんにおけるPIK3CA遺伝子の変異頻度は、過去に報告された食道扁平上皮がん切除標本における変異頻度よりも低い結果でした。食道がんにおけるctDNAの変異頻度は低く、ddPCR法による変異検出が困難であり、当初計画していた抗がんウイルス療法への応用が難しい結果となりました。
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