本研究は、憲法が国家にどのような任務または課題を設定しているのかについて検討を加えるものである。本年度は、社会保障、安全、情報の流通等にかかわる国家の任務について検討した。 第一に、社会保障については、その核心部分である生活保護が主観的権利を持って憲法上保障されていることを確認し、その権利の構造について検討した。それは、次のようなものである。いわゆる「生存権」(憲法25条1項)は、従来的理解とは異なり、一定の構造を持つ「枠組的権利」であり、立法者が生存権を法律によって具体化する際には、憲法上の枠組みとして観念される社会扶助法上の基本的諸原則が遵守されなければならない。具体的には、主観的権利原則、需要充足原則、個別化原則などである。以上の検討から、憲法は、国家に様々な任務を課しているけれども、その形態は一様ではなく、部分的には、国民に主観的権利を付与することによって、その遂行がよりよく実現されるようにしている場合もあることが確認できた。 第二に、安全は、古典的な国家の目的とされ、国家は基本的には「危険防御」によってこの目的を達成してきた。しかし、近年では、国際テロリズムの危険が増大していることから、単なる「危険防御」では事態に対応できず、「リスク予防」へと対応が移行してきている。リスク予防により、国家による介入は前倒しされることになるが、基本権保障との関係ではデメリットも大きい。そこで基本権介入を正当化するものとして持ち出される公共の福祉の内容が「安全」なのか「安心」なのか、あるいは「安全」という概念が変遷したのかという新たな課題に直面することになった。 第三に、情報の流通についてである。フェイクニュースやオルタナティブファクトがあふれる現代において、国家が正確な情報を提供することが求められることを確認し、その活動は、中立性原則に基づいて行われなければならないことを示した。
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