本研究は、労働者の過去の職歴、副業経験が転職行動に与える影響を、理論的、実証的に分析し、それらの影響に関して、労働者の特性、地域、景気動向などによる相違も検証するものである。 本年度は、研究実施計画に基づき、エストニアと日本の労働市場について、個票データを用いた実証研究に取り組み、研究成果をまとめた。 エストニアの労働市場については、Estonian Labor Force Survey(1995年)の個票データを用い、過去の副業経験が労働者の転職行動に与える影響について実証的分析を行った。体制移行期(1989~95年)の労働者の転職行動を、労働者の教育と収入を基準として指標化した職業階級間の移動という観点から、労働者の特性にも注目し、統計的に考察した。転職後の職種との関係にも着目し、副業経験が職業階級間の移動を促進する効果があるか統計的検証を行った。さらに、Sabrianiva(2002)の手法に従い、副業経験が転職の意思決定に与える影響に関する実証分析を行った。これらの研究成果をまとめ、近日、学会報告、論文投稿を行う見込みである。 日本の労働市場については、副業の特徴を明らかにすべく、特に景気循環との関連について、複数年の「就業構造基本調査」の個票データを用いた分析を行った。近年の日本と米国の労働市場における副業所有と景気循環の関係を考察し、副業所有の地域間格差(州間、都道府県間)についての論文を執筆した。さらに、労働者のパートタイムや副業の経験が、その後の転職行動に与える影響、副業経験をもった転職行動と景気循環の関係について、実証分析を行った。副業やパートタイムの経験の転職行動への影響の分析は、正規・非正規労働者という労働市場の構造問題、需給のミスマッチの解消方法を示唆し得るという点でも意義が大きい。実証分析結果を早期にまとめ、学会報告、論文投稿につなげるものとする。
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