研究実績の概要 |
本研究は,仮名表記語と漢字表記語の読みの性質について,漢字語とカタカナ語が持つ音韻隣接語によって検討するものである。仮名表記語と漢字表記語は,文字と音の一貫性の差異によって処理が異なると言われてきたが,最近,Hino, Kusunose, Lupker & Jared (2013)は,カタカナ語も漢字語と同様に,形態情報から直接,意味情報へアクセスしていると報告している。この結果は,カタカナ語から漢字語および漢字語からカタカナ語の音韻情報は活性化しているのかという新たな問題を提起している。そこで,本研究では,漢字語およびカタカナ語の音韻隣接語の数や漢字語におけるカタカナ語の音韻隣接語・カタカナ語のおける漢字語の音韻隣接語などを用いて,漢字語とカタカナ語の語彙表象の特徴を明らかにすることを目的とした。 平成29年度は研究1として、アルファベット表記で観察されている音韻隣接語数による効果が、漢字語とカタカナ語でも観察されるかどうか検討を行った。それぞれの表記における実験では,音韻隣接語数が多い条件と少ない条件について,語彙判断課題と音読課題を用いて比較した。その結果、漢字語では,語彙判断課題において音韻隣接語数が多い条件が少ない条件よりも反応時間が短くなる促進効果が観察されたが、音読課題では音韻隣接語数による効果は観察されなかった。一方、カタカナ語では,語彙判断課題において音韻隣接語が多い条件に反応時間が長くなる抑制効果が、音読課題では語彙判断課題と逆に促進効果が観察された。 これらの結果は,アルファベット表記と同様に,漢字語とカタカナ語における音韻隣接語の活性化が生じていることを示していた。また、漢字語とカタカナ語における音韻隣接語数による効果の違いは、課題の性質と形態隣接語と音韻隣接語の数の一致度によるものだと考えられる。
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