研究課題/領域番号 |
17H07065
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研究機関 | 文京学院大学 |
研究代表者 |
横井 夏子 文京学院大学, 人間学部, 助教 (50806411)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 信頼 / 子ども理解 |
研究実績の概要 |
平成29年度の本研究の計画は、主に文献レビューと参与観察のプレ調査の実施であった。 学校教育において、教師が他者たる子どもの(自由な意思に基づく)予期を予期することは、教師が子どもの信頼を獲得する方途といえる。このことは、教育実践の場でときに「子ども理解」として語られている。そのため、文献レビューでは、教師のふるまいの根底にある思想を確認し、教育現場において、子どもの抱く信頼が、子ども理解との関連でどのように語られているかを読み解くことに努めた。同時に、複数の教育実践報告を聞くために、実践報告がなされる学会等に参加した。 なお、一連の文献レビューの過程で、子ども理解のなかで、「声」を聴くことの重要性が判明した。というのも、子どもは、その発達段階に応じて他者への依存度が下がることが予測されるものの、最初から「自立」した(他社に全く依存しない)個人などというものは存在しないのであるから、他者に依存せざるを得ない者やその他者から依存されている者も含めて「声」を聴くなかでこそ、子どもの行動の理由にセンシティブな教師たりうるといえるからである。その成果は、民間教育研究団体の一つである教育科学研究会の三月集会(平成30年3月24日に法政大学第二中・高等学校で開催)において、口頭発表の機会を得た。平成30年度は、引き続き関連文献の精読を進める。 また参与観察のプレ調査では、教育実践の報告・記録の経験がある協力者を得て、当該協力者である教師の担任する学級に入り、子どもたちのふるまいを中心に観察し、担任教師との打ち合わせも経て、本調査での観察のポイントを見極めることとした。プレ調査後に協力者から、参与観察の対象学年によっては、子どもに直接アンケートをとることが参与観察の助けになる可能性があるとの助言を受けたため、本年度は参与観察の本調査とともに、子どもへの質問紙調査の可否も打ち合わせる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、参与観察の協力者である複数名の教師に、学校訪問および授業見学を依頼している。平成29年度にプレ調査を行い、それを踏まえて平成30年度は数回、参与観察の本調査を行う予定である。協力者である教師とは、研究会等でも顔を合わせているため、打ち合わせはほぼ予定通り進んでいる。 なお、協力者の少なくとも半数(2~3名)は、平成30年度も引き続き持ち上がりの学年(クラス替えのない場合が多い)を担任する見込みであったが、イレギュラーによって別の学年を担任することになり、子どもとの信頼関係の構築までに時間がかかることが予想される。そのため本調査では、年度のなかで複数回にわたって、当該協力者の学級で参与観察を行い、その経過を記述することにする。また同時に、参与観察の対象となる協力者の依頼を関東圏外にも広げて、同一の教師による「持ち上がりの学年・学級等での授業」と「持ち上がりでない学年・学級等での授業」との差異を観察できるよう、現在も交渉中である。 なお、プレ調査後に助言のあった子どもへの質問紙調査は、当初予期していなかったことと、助言を受けた時期が年度末であったという事情のため、進展していない。この点については、子どもへの質問紙調査の可否を協力者に確認しつつ、協力者らと質問項目を精査して対応を検討することになる。
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今後の研究の推進方策 |
【参与観察・本調査】 プレ調査を踏まえ、まずは協力者である教師と複数回にわたる折衝を重ねる。なお、当該教師らは、持ち上がり学年でない学級の担任となった者が多いため、必要に応じて年間にわたって調査等を続け、教師が子どもからの信頼を獲得する様子や教師が子ども理解を深める様子を観察することとする。なお現時点では、複数の協力者から、研究のためのより子細な分析に供する限りにおいて、授業等の録画・録音等の記録をとることを許可されている。万が一、録画・録音等が急遽困難になった場合にも備えて、学校ではフィールドノーツを作成し、その前後に当該教師との打ち合わせを行う。 以上に加え、プレ調査後の協力者からの助言もあって、子どもへの質問紙調査の可否および(調査可能な場合に使用する)質問紙の質問項目の精査が必要となる。助言者である教師は小学校低学年の担任で、当該学年は質問紙調査には適さないとのことであったため、他の協力者の学級での調査の可否を確認しつつ、実施の見通しが立ったところで質問項目の精査を行う。 【記述・説明】 これまでの文献レビューおよび参与観察・本調査等から得られた知見をもとに、教師の子ども理解と子どもからの教師への信頼との関連を理論的に明らかにし、子どもと教師の関係性を組み替える可能性についての考察を、本研究の成果として発信する。具体的には、日本教育学会における研究発表と、論文集への寄稿である。とくに、寄稿依頼のあった論文集は、教職課程のテキスト・参考書として、あるいは広く一般書としての読者を想定しているため、本研究の成果を社会に発信する手段としては、より合理的かつ妥当なものであろう。引き続き文献レビューを続ける予定であり、参与観察が年度末まで続く可能性もあることから、論文集の執筆に含められない知見が出ることも当然想起される。 その場合は、翌年度の学会誌に投稿することとしたい。
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