本年度は昨年度同様,蓄熱熱輸送媒体としての利用が期待される,相変化エマルションを対象とし,実際の蓄熱運転を想定した,蓄熱時の熱交換特性の解明に取り組んだ.昨年度の研究より,エマルション中の相変化物質の過冷却の抑制には,適切な界面活性剤の選択が有効であることが明らかとなったため,核生成促進効果を有する界面活性剤と有していない界面活性剤を用いて生成したエマルションの熱交換特性の比較を行った. 研究成果として,まず,蓄熱に際する相変化物質の凝固を伴った場合の熱伝達率は,相変化物質の凝固を伴わない場合の1.5倍まで上昇することがわかった.これは相変化物質の凝固を伴うことで,温度境界層を薄くする効果が得られたためだと考えられる.また,熱伝達率の上昇は界面活性剤の種類には依存性ないことも明らかとなった. もう一つの得られた重要な成果として,相変化物質の核生成開始温度は流動させた場合においても,静置条件下とほとんど同じであるということが明らかとなった.これは核生成促進効果を有する界面活性剤および有していない界面活性剤ともに同様であった.流動させた場合には,分散質である相変化物質にせん断力が作用するため,せん断力が核生成のトリガーとなることが予想されたが,本研究で実験を行った条件の範囲内において,影響はほとんどないことがわかった.別の核生成のトリガーとなる要素の解明が必要ではあるが,流動させた場合でも過冷却を維持する性質を利用し,過冷却状態を維持しながら循環させ,必要な時に凍結させるパッシブなシステムの構築も期待される.
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