研究実績の概要 |
2018年度は学会や講演、また共著の編集を通じて、関連する他領域の研究者たちと活発に意見交換を行う機会を持つことで、自身の研究により一層広がりを持たせることができた。9月にバーミンガムで行われた国際会議「Editing, Performing and Re-Composing the Musical Past」では、古楽を聴く習慣の始まりとフランスの新しい和声との関連について発表した。19世紀~20世紀フランスにおける古楽復興というテーマを追う自分にとって研究上のモデルでもあった世界第一線の研究者たちに研究を聞いていただき、また彼らの最新の研究を聞くことは、大変刺激になった。これまで、和声と聴取の問題、そして古楽復興運動を関連させる研究はほとんどなく、実際このカンファレンスにおいても、「和声」という理論的主題を扱う研究は他になかった。だからこそ、理論と社会の関連を問う方法論は、継続する価値があると確信した。2019年1月に音楽之友社より出版された共編著『ハーモニー探究の歴史』では、この問題を、他の共著者の力も借りて、古代ギリシャから20世紀アメリカまで体系的に辿ることができ、大きな成果に結びついたと言える。 ヴァンサン・ダンディを中心に、和声(作曲と理論)と古楽復興の問題を追い続けた結果、現在は、世紀転換期フランスにおいて重要なヴァグネリスムとドビュッシスムの関連性や思想的背景の解明に取り組んでいる。一部は2019年5月刊行の『北里大学一般教育紀要』に研究ノートとして発表し、また7月に京都で行われるシンポジウムにて、より発展させた発表を行う予定である。一方でダンディの『作曲法講義』の重要性は明らかであり、それが20世紀初頭の日本において熱心に受容されていることから、日本におけるフランス和声の受容についても調査を開始している(10月に英語で発表予定)。
|