本研究の目的は,想起における判断基準のシフトであるリベレーション効果について,その個人差に着目して現象を検討することである。 平成30年度は,前年度に行った実験のデータ分析を遂行した。実験では,48名 (20代~50代の男女24名ずつ) の一般成人の実験参加者が,学習フェイズで単語を記銘し,テストフェイズで再認判断を行った。その際半数の試行では再認の直前に計算問題が挿入された (計算あり条件) が,もう半数では挿入されなかった (計算なし条件)。計算あり条件のold 判断率がなし条件のそれより高ければ,判断基準の緩い方向へのシフト,つまりリベレーション効果が生起したといえる。本研究では,上述の課題を同一の実験参加者に対して期間をおいて3回行った。その結果,リベレーション効果が同一参加者に複数回生起することが示された。さらに,本効果は40代・50代でも生起するが,若年者の方が効果が大きいことが示された。この結果はリベレーション効果における個人差の存在を示唆するものである。 また,リベレーション効果が生起する個人は他の基準シフトも生起するのか・メタ認知能力が高いのかを検討するため,56名の大学生を対象とした実験を新たに行った。その結果,他の基準シフトとリベレーション効果の関連を示すには至らなかったが,リベレーション効果とメタ認知能力を測定する質問紙との関連が示された。メタ認知能力の高い個人はリベレーション効果が生起しやすいことが示唆され,本効果の生起メカニズムにメタ認知の介在を仮定することの妥当性が示された。 国際学会であるThe 30th Association for Psychological Science Annual Conventionにおいて,リベレーション効果と個人特性に関する研究成果を発表した。また,リベレーション効果の生起メカニズムを検討した諸研究結果をまとめ,第一著者として国際ジャーナルに投稿し,現在査読中である。
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