研究課題/領域番号 |
17H07081
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
倉科 佑太 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 助教 (40801535)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 超音波振動 / 細胞培養 / 音響流 / 再生医療 |
研究実績の概要 |
iPS細胞をはじめとして再生医療の普及により,機能不全の臓器に対する新たな治療法が確立されはじめている.しかし,iPS細胞を末端細胞に分化誘導したのちに,一部未分化の細胞が残存することで,移植した患部が腫瘍化するという問題がある.本課題では,超音波帯の音響放射圧に着目し,従来の培養方法とは全く異なるスクリーニング方法を開発し,実施した.具体的には,未分化の細胞を除去する方法として,振動子を用いて超音波を培養ディッシュの裏側に照射し,生じる音響放射圧により培養ディッシュの底面に接着した任意の細胞を非接触で局所的に除去するスクリーニングシステムを具現化した.本システムは,試薬を投与する必要なく,多様な細胞種に対応できることから,再生医療の臨床化に資するiPS細胞を大量培養するための培養システムの発展・普及に寄与することが期待できる. 今年度は,細胞の局所的な剥離手法について超音波ホーンまたはSAWデバイスのどちらを使用するかを検討した.結果として,超音波ホーンでは,任意の位置を局所的に剥離することが困難であることから,SAWデバイスを用いた方法を採用することとした.本年度では,一点に超音波振動を集中することができるFocus SAWデバイスを使用することで,任意の位置で直径100 um程度の大きさまで剥離領域を限定できることを確かめた.一方で,一度の剥離操作では,細胞が剥離しないこともあることが確かめられた.このため,今後の実験では,剥離成功率を向上するために適切な剥離条件(出力,距離,溶媒)を検討することとする.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,細胞の局所的剥離手法について超音波ホーンまたはSAWデバイスどちらの使用するかを検討した. はじめに,超音波ホーンを製作して細胞の局所的な剥離を行なったが,剥離可能な範囲を直径200 um以下にすることは難しく,また,任意の場所を安定して剥離することが困難であることが確認された.これらの要因は,超音波ホーンを使用する場合には,超音波ホーンと培養ディッシュの間に存在する溶媒中で,超音波ホーンの先端から垂直方向以外にも超音波振動が発生することや振動した際に先端が左右に揺れることである.これらの影響により超音波ホーンの先端部分以外にも部分的な剥離が生じていた.次に,SAWデバイスを使用した剥離装置を開発した.本装置では,通常のSAWデバイスと異なり,振動の発生する部分を扇状にパターニングするFocus SAWデバイスを用いることで,焦点に超音波振動を集中させることができる.この装置を用いて細胞を剥離することで,直径100 umほどの大きさの領域の細胞を剥離することができた.加えて,超音波ホーンと異なり,任意の位置を剥離することができた.以上の結果から,今後の実験では,Focus SAWデバイスを用いることとする. また,細胞を剥離する現象については,培養ディッシュの厚さや用いる超音波振動の条件を変更することで,超音波振動により生じる音響流が細胞の剥離にもっとも重要であることを明らかとした.これらの結果から,本年度は当初の予定通り順調に進行している.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の実験結果から,Focus SAWを用いたデバイスにより細胞の局所的な剥離方法が有効であることを確かめた.一方で,剥離領域のさらなるサイズダウン化や剥離成功率の向上などの課題が存在する.これらを解決する方法として,はじめに実験条件の最適化が求められる. 具体的な実験条件の最適化の条件として,印加電圧を変化させて照射する超音波振動の強さ,培養ディッシュとFocus SAWデバイスの距離,培養ディッシュとFocus SAWデバイスの間に超音波振動を伝達するための溶媒の種類を検討する必要がある.これらの条件を最適化したのちに,細胞の剥離領域の大きさとその剥離成功率について検討する.その際,照射条件として照射時間と照射回数の検討と連続波またはパルス波の違いについても検討する.これら全ての条件を検討して,任意の剥離範囲で細胞を剥離できるか調べる.なお,実験手順は以下の手順a ~ dを用いて評価する. a.直径35mm培養ディッシュ上にC2C12を播種し,90%コンフルエントになるまで培養する.b.超音波をディッシュ底面から照射してターゲットの細胞を除去する.c.除去後に残存した細胞をCalcein AMとpropidium iodideを用いて蛍光染色する.d.剥離した部分を蛍光顕微鏡により観察し,その直径の大きさと周囲の細胞の生死判定を行う. 条件検討後,iPS細胞から心筋細胞などを分化誘導させ,培養面に残存してしまうiPS細胞を除去できるか否かを本デバイスを用いて検討する.
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