研究課題/領域番号 |
17H07082
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
矢島 明希子 慶應義塾大学, 斯道文庫(三田), 助教 (20803373)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 書誌学 / 狩谷エキ斎 / 論衡 |
研究実績の概要 |
まず、拙論「書陵部本宋版『論衡』について―上海図書館本との比較検討」を掲載した宮内庁書陵部漢籍研究会編『図書寮漢籍叢考』(汲古書院)が平成30年2月に発行された。本研究課題はこの論文を端緒としている。 本研究の目的は、狩谷エキ斎の『論衡』校勘について整理し、エキ斎の漢籍研究の方法及び狩谷エキ斎の業績における『論衡』校勘の位置づけと伝来について調査・考証することである。そのためには国内に散らばったエキ斎書き入れ本や、その他エキ斎ゆかりの人物が彼の校注を参照した諸本を調査し、それぞれの関係を明らかにする必要がある。平成29年度は、当初計画していた以下の諸本について調査・撮影・複写を行った。 (ア)寛文三年和刻本(静嘉堂文庫101・1)、(イ)『広漢魏叢書』所収本(慶應義塾大学、110X・567・100)、(ウ)狩谷エキ斎校『論衡校異』(東北大学図書館、狩1・808)、(エ)岡本況斎手稿『論衡考』(東北大学図書館、伊2-258)、(オ)寛文三年和刻本(京都若山喜右衛門刊本、京都大学、中哲文C・XIVh・1-6) 新たに東北大学図書館狩野文庫に、狩谷エキ斎が(イ)に施した校注を転写した(カ)『広漢魏叢書』所収本(狩1・282)を発見し、調査、部分撮影した。 これらのうち、(ア・イ・エ・オ)には書き入れ識語があり、特に(エ)には「私が思うに、亡き友の狩谷氏が蔵せる宋槧本も、亡き友の小島春庵が蔵せる通津草堂本も、今その家にあるのか、あるいは他家にわたったのか分からない」という内容の識語があり、諸本の所在に関する重要な手がかりを得た。 また、竹村五百枝「近世名家逸話」(『図書館雑誌』第2号、1908)には、エキ斎が京阪に旅行した際に軽井沢において、明版以降脱落した1丁分を存せる善本を発見、購入したという逸話が見える。これが事実であれば、ここで購入した善本こそ宋本と推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で示したとおり、当初計画していた5点について一応の調査・撮影(複写)を終え、さらに、関係する東北大学図書館蔵『広漢魏叢書』所収『論衡』三十巻(狩1・282)を発見することができた。また、平成30年度に入ってから行った調査で、静嘉堂文庫蔵『論衡』明萬暦刊(47・11)には、エキ斎と関係の深い小島宝素によって、宋本および通津草堂本と対校した書き入れが施されていることが判明した。当然今後もこのような未知の発見があることが予想されるため、引き続き調査を継続したい。 狩谷エキ斎および関係諸氏については、已然資料や先行研究を収集する段階であるが、狩谷エキ斎特集が組まれた『書誌学』第4巻第6号(1935)や、榎一雄「岡本保孝のこと」(『東洋文庫書報』第9~11号、1977~1979)など、示唆に富む先行研究を入手することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、狩谷エキ斎はもちろん、岡本况斎や小島宝素など関係諸氏と宋本『論衡』の関係に比重を置いて調査・研究を進める予定である。そのために、平成29年度において調査撮影した諸本の識語や書き入れを確認し、諸本の関係性をつきとめるとともに、書簡やその他先行研究から明らかになる諸氏との関係について追究する必要がある。これについては、梅谷文夫『狩谷エキ斎』(吉川弘文館、1994)や川瀬一馬「狩谷エキ斎―学者としての生涯―」(同氏著『続日本書誌学之研究』雄松堂書店、1980)、森鴎外が著した『渋江抽斎』や『伊沢蘭軒』(いずれも『森鴎外全集』筑摩書房、1996所収、初版は1971)などの伝記類が有効となるだろう。 『論衡』諸本の調査についても引き続き行う。幸い、前斯道文庫教授の山城喜憲氏より、氏がこれまでに調査された論衡の調査目録を得ることができた。今後の調査はこれに基づいて進める。 最終的には、狩谷エキ斎旧蔵宋本『論衡』とエキ斎が校勘に用いた諸本、そしてその校勘が関係する諸学者にどのように広がっていったのかを書物を通じて検討し、論文として発表する予定である。
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