前年度までに、肝細胞癌の免疫微小環境が病理組織学的に3つの群に分けられ、うち一群(Immune-high群)がT細胞浸潤に加えて濾胞外B細胞ならびに形質細胞の共浸潤に特徴付けられることを報告した。この結果に基づき、平成30年度は以下の検討を行った。 まず、Immune-high群の肝細胞癌において特徴的な濾胞外B細胞ならびに形質細胞浸潤を生じるメカニズムを検討するために、前年度までに作成した肝細胞癌のcDNAライブラリを用いてB細胞ならびに形質細胞の遊走に関連する因子の発現について検討した。結果としてCXCR5ならびにそのリガンドであるCXCL13の発現がImmune-high群の肝細胞癌にほぼ限定して認められ、CXCL13/CXCR5シグナルの寄与が強く示唆された。次にCXCL13を産生する細胞を特定するためin situ hybridization法を用いた検討を行ったが、有意な陽性像が認められなかった。本研究で用いた検体がやや過固定であることと、保管期間が数年以上経過していることが原因と考えられた。現在、CXCL13に対する抗体を用いて免疫組織化学による検討が可能か研究を継続している。 次に、肝細胞癌の免疫微小環境と背景肝組織の免疫微小環境の対比を行うため、新たに60例の肝細胞癌切除検体の背景肝組織からcDNAライブラリを作成した。はじめにBudhuの17-gene signatureを用いて遺伝子発現に基づく背景肝組織の分類を行ったが、既報告にあるような明瞭なTh1/Th2シフトは認められなかった。これは本研究で用いたコホートには多くの非B非C症例が含まれており、肝細胞癌のetiologyが異なるためと考えられた。現在並行して多重免疫染色による背景肝組織の免疫微小環境の解析を行っており、今後、遺伝子発現解析結果との比較検討を行う予定である。
|