研究課題
アトピー性皮膚炎 (AD) は、増悪と寛解を繰り返す皮膚疾患であり、その痒みは様々な遺伝及び環境因子が絡み合う複雑な機序で発症し、抗ヒスタミン薬が奏功し難い『難治性の痒み』を伴う慢性炎症性皮膚疾患である。これまで申請者の研究グループでは、ADにおける難治性痒みの原因の一つが表皮内への知覚神経線維の侵入であり、皮膚バリアの機能が破綻しているAD患者や乾皮症、またはそれらのモデルマウスの皮膚において、NGFやAREG等の神経伸長因子の発現亢進ならびに、神経線維を退縮させるSema3A等の神経反発因子の発現低下を見出した。この神経線維の稠密化は外部からの痒み刺激や炎症局所のケラチノサイト、マスト細胞、T細胞等免疫細胞が産生する起痒物質に対する受容の増加につながり、痒み過敏や増強に関与することが推定されるが、その詳細は明らかとなっていない。またADの炎症局所では、好酸球や2型自然リンパ球 (ILC2) が浸潤していることも知られているが、ADの痒みにおけるこれら細胞の役割については不明である。そこで本研究では、免疫細胞と知覚神経線維の相互作用の観点から、ADにおける痒みの発症メカニズムの解明と新たな治療及び予防法の開発を目的とし、研究を行った。平成29年度は、ADモデルマウスを用いて皮膚病変部における免疫細胞の特性化を行った。また、免疫細胞と知覚神経線維の分布解析についても試みた。現在、AD患者における皮膚病変部の免疫細胞及び知覚神経線維の分布解析を進めている。一方、マウス後根神経節細胞 (DRG) と好酸球及びヒトinduced pluripotent stem (iPS) 細胞由来神経細胞とヒト末梢血由来好酸球の共培養系の条件を検討中である。次年度は引き続きAD皮膚病変における免疫細胞と知覚神経の相互作用を解析し、学会発表及び論文化する予定である。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度の研究では、ADモデルマウス皮膚病変部における免疫細胞の分布を明らかにした。その結果好酸球はAD病変部に浸潤し、知覚神経線維と接触することが明らかとなった。これらの研究成果の一部は、2017年12月に高知県高知市で開催された第42回日本研究皮膚科学会で発表した。ほぼ予定通りに研究は進行していると考えられる。
平成29年度の研究成果を踏まえ、平成30年度はAD患者皮膚を用いた免疫細胞と知覚神経線維の分布について、引き続き解析を進めている。また、免疫細胞と知覚神経線維の相互作用を明らかにするため、DRGと好酸球及びiPS由来神経線維及び好酸球の共培養系を立ち上げ、検討を引き続き進める。本研究成果の学会発表および論文化も予定している。
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J Allergy Clin Immunol.
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Allergol Int.
巻: 66 ページ: 463-471