本研究では、骨軟部肉腫における脱リン酸化活性阻害因子を標的とした新規治療法の開発を行い、難治性骨軟部肉腫における生命予後の改善を目指している。 前年度は、これまで進めていた悪性軟部腫瘍の一つである胞巣型横紋筋肉腫について、特異的融合遺伝子であるPAX3-FOXO1発現と、主要なセリン-スレオニン脱リン酸化酵素であるProtein Phosphatase 2 (PP2A)の阻害因子との関連を同定し、PP2A阻害因子抑制薬による抗腫瘍効果を発見した。PAX3/FOXO1融合遺伝子を有する胞巣型横紋筋肉腫細胞株に対して、PAX3/FOXO1融合遺伝子発現抑制下での網羅的タンパク質発現プロファイリングを作成したところ、PAX3/FOXO1融合遺伝子によって負に制御されている可能性があるPP2AサブユニットであるPPP2R1Aが同定された。PAX3/FOXO1融合遺伝子発現がPP2A阻害因子であるSETの発現とも関連している事を同定し、SET抑制薬であるFTY720を用いた細胞増殖試験において、胞巣型横紋筋肉腫に対する抗腫瘍効果も同定した。 その結果に基づき、他の特異的融合遺伝子を有する事が報告されているユーイング肉腫、滑膜肉腫について、FTY720の腫瘍抑制効果を検討したが、胞巣型横紋筋肉腫と比較して優位な抗腫瘍抑制効果は得られなかった。また、SETの発現も優位なものではなかった。 また、EWS-FLI1を有するユーイング肉腫細胞株、SYT-SSXを有する滑膜肉腫細胞株について、各融合遺伝子発現抑制下での網羅的タンパク質発現プロファイリングを作成したが、PP2Aに関連する因子の優位な発現変動は同定されなかった。
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