研究課題/領域番号 |
17H07099
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
岡田 紅理子 上智大学, 総合グローバル学部, 研究員 (70802502)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 台湾原住民族 / アミ / キリスト教化 / 改宗 / 信仰継承 |
研究実績の概要 |
初年度にあたるため、まず論点整理をおこなった。そのうえで、原住民族キリスト教徒をおおよそ二分するカトリック教会とプロテスタント教会で相違のみられた在来の神々や精霊とキリスト教における神・聖霊といった神聖の存在の関係性と、それらの初期の宣教時における引用・援用について検討するため、特に1950年代のキリスト教宣教に注目し、これまでに入手した文献資料の読み込み作業と新史資料の渉猟を図った。しかし、両教会を対象としたこれらに関する詳細な分析をした研究・著作をみつけることができなかったため、聖書の原住民族諸語翻訳に関わった牧師と神父へのインタビューをとおしてその克服を試みた。その結果、聖書翻訳に長老教会が在来の神々と精霊の名称を採用した経緯と、それによって生じた「弊害」と対策、一方のカトリック教会がキリスト教的神聖に在来の神々と精霊の名称を採用せずも、在来のコスモロジーを用いて宣教した経緯について概要をつかむことができた。これにより、両教会に異なる宣教観と牧会・司牧観があることが浮上した。また原住民族への宣教と牧会・司牧の論理的背景である神学については、ともに1950年代の神学的潮流の影響を大きく受けた「原住民(族)神学」が両教会それぞれで検討・提唱されたものの、宣教観には共通性が見出された。しかし、1980年代以降はそれぞれが異なる原住民族の現実理解を展開したことによって実践における相違が顕著になった一方、それぞれが分業的に原住民族の現実に応えているという視座も生まれたことが明らかになった。こうした論点をとおして、両教会を「キリスト教」と一括したまま原住民族のキリスト教化を記述・議論することは、両教会の個別性ばかりか、その約8割がキリスト教徒といわれる原住民族の現代の営みと実践の動態を捨象しかねないことがより明確になったほか、二年目に検討すべき命題と課題がより鮮明になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
論点整理の結果、関係者へのインタビューを実施したものの、フィールド調査開始直後に1970年代以降の宣教とアミ語訳聖書編纂の中心人物でもある研究協力者の一人の発病が判明し、インタビューはおろか、公刊されていない宣教初期と聖書翻訳に関わる資料を収集できなかった。これにより、他の調査結果を詳細に分析することができず、研究成果の刊行を実現できなかった。現時点においても研究協力者の病状に進展はあまりないが、初年度の進捗状況を受けた対策として、原住民族諸語の言語的重要性から聖書翻訳に言及している著作を新たに入手したこと、現在出版に向けて進んでいる新約聖書アミ語訳作業チームへのインタビューと参与観察を次年度に計画していることから、分析の不足の補填が見込まれる。以上を総合し、「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は補足調査とその分析を継続してつつ、新たなインタビューと参与観察をおこなう。最終的に、2カ年にわたる調査を総合的に分析し、報告書および論文執筆をおこなう。補足調査としては、上記の発病した研究協力者の不在に対しては、収集した関連する新資料の読み直し、資料の再渉猟、他の研究協力者への追加インタビューをおこなう。また、公刊されていない史資料の収集については、現在対策を検討を急いでいるが、これまでに構築した教会関係者を介した入手を見込んでいる。さらに、新たにおこなうインタビューについては対象者を絞って集中的におこない、参与観察とあわせて成果を集約し、分析を進める。
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