乳歯が萌出する前から口腔内に定着するミティスレンサ球菌は、生体にとって有害な活性酸素種(ROS)の一つである過酸化水素を産生する。過酸化水素は細菌自身にも毒性が強く、これらの生体内での役割は未だに解明されていない。申請者らはROSの中でも特に安定している過酸化水素に着目し、ミティスレンサ球菌が産生する過酸化水素が自然免疫細胞であるマクロファージ(Mφ)の機能を低下させることを報告してきた。 本研究ではミティスレンサ球菌の産生する過酸化水素が口腔内の免疫機構に何らかの影響を及ぼし、乳幼児期における初期定着に有利に働いているのではないかとの仮説のもと、口腔細菌叢の解析と、過酸化水素による自然免疫細胞に対する制御の仕組み、および常在細菌叢の形成における役割を解明することが目的である。 平成29年度では、健常な乳幼児(乳歯萌出前、乳前歯萌出期、乳歯列完成期、永久歯萌出開始期)の唾液を採取し、DNA抽出を行った。抽出したDNAはPCRで増幅し、電気泳動で確認後、次世代シークエンス(MiSeq、Illumina社)を用いて数名の解析を行った。今後はさらにサンプル数を増やし、次世代シークエンスを用いて詳細に解析を進める予定である。また平成30年度からは過酸化水素によるMφの免疫制御の分子機構を解明するために、in vitroにおける過酸化水素処理および過酸化水素産生性ミティスレンサ球菌で感染させた時のMφの機能変化について解析する。以上の解析を進めることで口腔常在細菌であるミティスレンサ球菌の産生する過酸化水素の生理的意義を解明し、乳幼児期における初期定着の関与について解明することが最終目標である。
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