研究課題/領域番号 |
17H07127
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
山本 紘輔 東京農業大学, 生命科学部, 助教 (80803254)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 植物 / 遺伝子 / 神経伝達 / 酵素 / アセチルコリン受容体 |
研究実績の概要 |
近年、申請者らは、植物の神経伝達様システム(仮称)という新しい植物情報伝達システムを提唱し、その存在を証明することが本研究の目的である。動物の神経伝達システムは、アセチルコリン(ACh)、アセチルコリン受容体(AChR)およびACh分解酵素(アセチルコリンエステラーゼ, AChE)の3者からなり、動物の筋収縮に関わる生命維持に必須である。植物においては、AChとAChEの2者の存在が認められているが、植物AChRについては、未発見である。 本研究では、植物AChR遺伝子の発見を目指し、初めにムスカリン性AChRリガンドに対して高い結合能を有する植物のスクリーニングを行った。スクリーニングには、動物薬理学でよく使用されているRIリガンド結合試験を用いた。ムスカリン性AChRリガンドとしてトリチウム標識のQNBをを使用した。また、植物試料についてはACh含有量が多い種を約30種選抜し、それらの粗膜画分を用いて本スクリーニングを行った。その結果、動物のリコンビナントAChRのリガンド結合能と比較して、植物にもAChRのリガンド結合能が存在することが推測された。しかし、植物細胞由来の非特異反応が検出されたため、RIリガンド結合試験の最適化を行った。 今後、引き続き目標とするリガンド結合量である≧0.5~1pmol/mg 総タンパク質を示す植物体を選定するためにスクリーニングを続ける予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本実験で重要なのは植物AChRの精製に適した植物種を入念に選定することである。植物種でのACh量やAChE活性を指標にAChR発現量が多いと推測される植物を入手した。既に、植物のACh研究の権威であるRoshchina教授から動物のニコチン性受容体の特性を有するマメ科植物が本実験に適するとの助言を得ていることから、マメ科植物も入手した。東京農業大学 冨澤元博教授からの研究協力支援により、放射性同位体(RI)標識した動物AChRのリガンドに対する結合能および阻害剤との競合試験を指標に実験材料となる植物体をスクリーニングした。その際に、ヒト由来のAChRを動物細胞で発現させ、リコンビナントAChRに対するリガンド結合量と比較することで植物の結合能を評価した。その結果、動物のリコンビナントAChRのリガンド結合能と比較して、植物にもAChRのリガンド結合能が存在することが明らかとなった。しかし、目標とするリガンド結合量である≧0.5~1pmol/mg 総タンパク質(LC-MS/MSの感度限界が約25 fmolであることを考慮した目標値)を示す植物体は存在せず、引き続きスクリーニングを行う予定となっている。 実験計画が遅れた原因としては、動物薬理学でよく使用されているRIリガンド結合試験を植物用に改良するために想定以上に時間を要したことにある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、目標とするリガンド結合量(≧0.5~1pmol/mg 総タンパク質)を有する植物が得られなかったとしても、スクリーニングで得られた最大リガンド結合能を有する植物を用いて、植物のAChRタンパク質の同定を進める。その際には、膜タンパク質の可溶化後のアフィニティークロマトグラフィー精製は、その条件検討に時間が費やされるため、光親和性リガンドを使用した精製法を行う予定である。放射線同位体(RI)標識した光親和性AChRリガンドを粗タンパク質抽出液に加え、反応後、未反応のリガンドを除去する。その後、タンパク質試料に光を照射し、リガンドとタンパク質を化学的に架橋する。光架橋した試料を電気泳動することでRI標識リガンドが結合したタンパク質をゲル上で検出・回収し、そのゲル片をLC-MS/MS解析する予定である。本方法で研究が飛躍的に進むことを期待している。
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