研究課題/領域番号 |
17H07137
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
井坂 和一 東洋大学, 理工学部, 准教授 (40543939)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | ジオキサン / 排水処理 / 生物処理 / 化学物質 / 固定化 / 窒素 |
研究実績の概要 |
新規規制物質1,4-ジオキサン排水の生物処理システムの安定化条件を解明中である。1,4-ジオキサンはIARCで2Bにランクされる発がん性が疑われる物質であり,動物試験では発ガン性が確実,人間にも発ガン性が疑われる化学物質である。この1,4-ジオキサンは,通常の生物では分解が困難であるとされ,化審法における1,4-ジオキサンの生分解性試験では分解率は0%である。 近年,1,4-ジオキサンを分解できるPseudonocardia sp.が発見され,我々はこの有用微生物を利用した1,4-ジオキサン生物処理システムについて検討を行っている。1,4-ジオキサンは化学合成過程から排出されることが多く,そこでは純水を利用していることから,1,4-ジオキサン排水中に共存する窒素やリンの濃度が不足する場合がある。窒素やリンが不足すると1,4-ジオキサンの生物処理性能が不安定になると考えられるが,適正な窒素とリンの濃度条件について検討された例は無い。 本研究では,連続試験系において1,4-ジオキサン処理性能における窒素・リン濃度の最低供給濃度について検討を行い,生物処理システムの安定化について検討を行った。その結果,窒素濃度10mg/Lの条件でも,1,4-ジオキサンを安定して処理できることを確認した。既報値では,窒素濃度が53mg/Lと高濃度の条件であったが,大幅に削減することが可能となった。さらに窒素濃度を低減する試験を行った結果,窒素濃度0.1mg/Lの条件でも,1,4-ジオキサンの生物処理性能は安定して維持することが可能であった。しかしながら,窒素供給を完全に停止(0 mg/L)すると,1,4-ジオキサン処理性能が維持できないことを確認した。今後,リン濃度の適正条件について検証を行う
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1,4-ジオキサンを分解できる分解菌(Pseudonocardia sp.)を利用した排水処理システムにおいて,適正な窒素濃度条件を見出し,処理性能の安定化要因の1つを見出した。容積1.44Lの連続リアクターを用いて,水温約20℃の条件でラボ試験を実施した。連続試験時には,リアクター内の菌体濃度が大きく変動すること,1,4-ジオキサンの処理性能が変動し,窒素濃度の影響が生じているのか,菌体濃度の変動であるのか,正確な評価が困難となる。そのため,ポリエチレングリコール(PEG)系の高分子ゲル内部にPseudonocardia sp.を固定化し,安定的に維持できる包括固定化技術を利用した。供試排水には,1,4-ジオキサンを単一炭素源とする合成排水を利用し,1,4-ジオキサンの他にMg,Ca,Pなどの元素を添加した後,窒素源として硫酸アンモニウムを所定の濃度となるよう調整した。 窒素濃度10mg/Lの条件でリアクターの立上げ試験を行った結果,1,4-ジオキサンを安定して処理できることを確認した。排水中の1,4-ジオキサン濃度は20 mg/Lであったが,処理後には排水基準値(0.5 mg/L)以下となり,その処理性能も安定して維持することができた。さらに窒素濃度を低減する試験を行った結果,窒素濃度0.1mg/Lの条件でも,1,4-ジオキサンの生物処理性能は安定して維持することが可能であった。既報値では,窒素濃度が53mg/Lと高濃度の条件であったが,窒素濃度を大幅に削減することが可能であることを明らかにした。なお,窒素供給を完全に停止(0 mg/L)すると,1,4-ジオキサン処理性能は維持することができず,最低窒素濃度として0.1mg/Lが必要であることを確認した。 以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
1,4-ジオキサンを分解できる分解菌(Pseudonocardia sp.)を利用した排水処理システムにおいて,適正なリン濃度条件について検討を行う。既往研究ではリン添加濃度45 mg/Lの条件で試験を行っており,低濃度条件での検討が必要である。そこで,次年度ではリン濃度を5mg/Lに低減し,1,4-ジオキサン生物処理システムの立上げ試験を行う。 実験条件については,前年度に実施した窒素処理条件の検討と同様とする。容積1.44Lの連続リアクターを用いて,水温約20℃の条件で運転を行う。また,ポリエチレングリコール(PEG)系の高分子ゲル内部にPseudonocardia sp.を固定化し,リアクター内部に充填して試験を行う。供試排水には,1,4-ジオキサンを単一炭素源とする合成排水を利用し,1,4-ジオキサンの他にMg,Ca,Nなどの元素を添加した後,リン源としてリン酸二水素ナトリウムを所定の濃度となるよう調整する。なお,窒素濃度条件については,前年度に得られた窒素濃度条件を参考とし,1~10mg/L程度に設定する。 リン濃度条件の検討では,まずリン濃度を5mg/Lに低減し,1,4-ジオキサン生物処理システムの立上げ試験を行う。1,4-ジオキサン処理性能の安定性を評価した後,さらにリン添加濃度の低減について検討を行う。リン濃度を0.1mg/L程度まで低減させ,1,4-ジオキサン処理性能への影響を評価する予定である。 これらの結果から,1,4-ジオキサンの分解菌(Pseudonocardia sp.)を利用した排水処理システムにおいて,適正な窒素およびリン濃度条件を見出すことができ,実用化への重要な運転要因を明らかにする。
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