同じ県内に所在し、同様の知的障害コースが設置された高校であっても、排除に抗するアプローチは調査した3校で異なっていた。 A校では障害の問題を、他の人権問題と同様に、差別の問題として考えようとする生徒や教員が多い。体系的な人権学習がカリキュラムに組み込まれており、3年にわたって人権問題を考え、発信する機会が設けられている。それを可能にしているのは、生徒間、生徒・教員間の密な関係づくりであり、自分の悩みを仲間と共有しやすい環境づくりがなされている。 B校では、入学式の直後に上級生の主催で、人権問題について2・3年生の話を聞き、障害のある仲間を紹介する機会を毎年作っている。そのおかげで、これまでに生徒から知的障害の仲間と学習することに対する疑問が出されたことはない。むしろ、当たり前に一緒にいる中で教員以上に人権意識が培われている。だが、全く異なる背景の生徒が集まる中で密な関係を構築することは困難であり、B校の人権学習は近年変化している。従来の人権問題にも触れつつ、生徒に身近な人間関係の問題に力を入れている。また、一般の授業全体でグループ学習や主体的な学習を多く取り入れることで、人権についても生徒が自ら学び取っていくことを期待している。 C校では、知的障害コースの生徒と一般の生徒との区別はほとんどされていない。少なくとも生徒間には相手に障害があるか否かを意識する者は少ない。貧困や虐待等の深刻な背景の生徒が多い中で、教員たちの当面の目標は、生徒たちに生き抜いていく力をつけ、命を守っていくことにある。したがって、人権問題も、障害などのカテゴリーで捉えるのではなく、それぞれの生徒が置かれた状況の厳しさと目の前で頻発するトラブルとどう向き合っていくのかが重要視される。また、学校内での居場所づくりの取り組みや、生き抜くうえで有用な情報や技術を身につけるための実践的な教育に力を入れている。
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