本研究の目的は、非人間中心主義をはじめとする環境倫理学の議論や、行為者を人間と物との複合体として捉える近年の哲学内外の研究動向を踏まえた上で、予測・制御の可能性の有無という観点から「自然」を再定義することである。その手掛かりとして、近年環境倫理学の分野でも注目されている和辻哲郎や、和辻と影響・批判し合う関係にあった西田幾多郎ら京都学派の哲学を扱う。 30年度は、計画通りに和辻哲郎と三木清における自然論の比較考察を行った。その結果、(1)和辻と三木における「自然」概念の相違の根底には彼らの「主体」概念の相違があること、(2)これらが彼らの倫理学理論の相違と結びついていることが明らかになった。 (1)に関しては、近代日本哲学における「主観」「主体」概念の形成史とも併せて、8月に北京のChina National Convention Centerで開催された24th World Congress of Philosophyにて口頭発表を行った。(2)に関しては、9月にドイツのヒルデスハイム大学にて開催されたEuropean Network of Japanese Philosophyの大会にて口頭発表を行った。 上記に加え、前年度から進めていた和辻と西田の比較考察についても、「主体」概念に注目することによって彼らの哲学の相違が明確になることが判明した。特に10月に行った関西大学図書館所蔵の西田自筆原稿「実践と対象認識」の調査によって、西田の「主体」の定義が「環境」概念との関係において変化していく様子が明らかになった。以上の内容については現在論文を準備中である。
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