MEMS等の微細加工技術におけるレジスト膜の塗布工程においてstriationと呼ばれる放射状のスジムラが発生し、最終製品の寸法精度低下に直結する課題となっている。 このstriationを回避・抑制するための指針を獲得することを目的に、実験と数値解析の両面からstriationの形成過程を調査した。 前年度、Striationの形成機構として、濃度差によるMarangoni-Benard(MB)不安定性の回転場での派生形である、との仮説を立て、マランゴニ効果と遠心力を駆動力とした流れと物質輸送の数理モデルを定式化した。このモデルに基づいてスピンコート中のマランゴニ数の過渡変化を計算したところ、回転開始から極めて早期にマランゴニ数が数桁上昇して極大を取った後に再び1桁程度減少すると予測され、スピンコート中に複数の遷移臨界を跨ぐ可能性が示唆された。実験では、スピンコート中のレジスト膜厚の時系列変化を白色干渉計にて測定することで、striationの発生による膜厚分布の時空間変動を捉えた。これを時間周波数解析した結果、回転開始から極めて早期にstriationの形成が始まっていると推察され、その後の過程で膜厚分布が複雑な時空間変動を呈することが明らかとなった。特に、過渡変化において比較的短波長成分が一旦強まった後に突然消失する現象が確認されたが、これは序盤のマランゴニ数の上昇に伴って複数段階の遷移が起こり、プロセス後半でマランゴニ数が減少して、ある段階の遷移臨界を下回ったことに対応すると示唆される。 これらの結果から、striationの形成機構がMB不安定性の派生形であるとの仮説が強く支持され、これを回避・抑制するための溶媒種の選定指針として、蒸気圧が低く、樹脂との表面張力差が小さいものが望ましいと提言するに至った。
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