研究課題/領域番号 |
17H07165
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
田原 彰太郎 茨城大学, 人文社会科学部, 准教授 (90801788)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | カント / 『道徳形而上学の基礎づけ』 / 『実践理性批判』 |
研究実績の概要 |
今年度は、最近の研究成果を踏まえつつ、カント『道徳形而上学の基礎づけ』に対する批判の読解を行い、次年度に行う各論の研究の地盤を作った。 今年度の研究は、同時代的批判の重要性を認めつつ『実践理性批判』を読解するという研究方針の先端研究者であるハイナー・クレンメの研究を参考にして進め、『実践理性批判』全体に同時代批判への応答が含まれていることを確認した。さらに、『道徳形而上学の基礎づけ』出版当時の代表的批判として、ピストリウスとティッテルの文献を読解した。この研究に関しては、ピストリウスのカント批判に関する最近の研究成果(Bernward Gesang, Kants vergessener Rezensent, Felix Meiner, 2007)も参照した。 今年度の研究を通して、『道徳形而上学の基礎づけ』の同時代における批判には、幸福主義(カントによれば、それは経験主義と同一になる)の立場からの批判があることが確認できた。『実践理性批判』全体の狙いは、経験的に条件づけられた理性のみが意志の規定根拠であるという主張を僭越として退け、純粋理性もまた意志の規定根拠であることを示す点にある。『実践理性批判』においてこの狙いが実現できているとすれば、この著作は同時代の経験主義的批判への再批判となる。『道徳形而上学の基礎づけ』に対する同時代の批判と『実践理性批判』の狙いとを関連付けることによって、本研究は『実践理性批判』を同時代の批判に対する再批判の試みとして読解する視点を確保したことになる。 平成30年度の研究においては、この視点から『実践理性批判』の具体的な論述を分析、解釈することになる。本研究ではとくに、「理性の事実」と「正と善」を主題化し、この主題のもとでの分析、解釈を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はとくに、『道徳形而上学の基礎づけ』に対する同時代の批判の読解において進展があった。代表的批判を読解しその内容を明らかにすることによって、それらの批判と『実践理性批判』全体の狙いとを関連付けることが可能になった。ただし、『道徳形而上学の基礎づけ』に対しては、その出版当時に様々な論者によるいくつかの小さな書評も書かれているが、これらの小さな書評を今年度は詳細に分析することはできなかった。これらの書評を分析対象として、それらの書評のなかに幸福主義的・経験主義的批判が含まれているかについての研究、さらに、含まれているとすれば、その内容についての研究が今後の課題として残った。 『実践理性批判』の研究に関しては、ハイナー・クレンメが哲学文庫版の『実践理性批判』に付した「事実についての注」などを参考に、同時代における批判に対応する『実践理性批判』の論述の大まかな見取り図を描くにとどまった。ただし、この進捗状況は計画通りで、平成30年度の研究において、とくに「理性の事実」、「正と善」という主題のもとで、『実践理性批判』のなかで同時代の批判に対して具体的にどのような再批判をカントが行っているかを明らかにする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度には、とくに「理性の事実」と「正と善」という二つの主題のもとで『実践理性批判』の研究を行う。 「理性の事実」に関しては、以下の研究を行う。本研究は、従来の研究のなかでそれとして問われることのなかった「「理性の事実」論の狙いは何か」という問いに、答えることを目指す。この問いに答えるため、本研究では、経験的に条件づけられた理性のみが意志の規定根拠でありうるという主張を否定し、純粋理性も意志の規定根拠でありうることを示す、という『実践理性批判』の論証目的と「理性の事実」とを結び付ける。『実践理性批判』のこの論証目的は、同時代の経験論者である批評家からの批判への再批判をその内実として持つ。この目的のもとで論じられている「理性の事実」は、この経験主義的な批評家たちを論駁することを狙っていたはずである。本年度の研究では、この仮説を裏付けることが目指される。 「正と善」に関しては、以下の研究を行う。正と善の関係は、『実践理性批判』のなかで「善悪の概念は道徳法則〔=正の法則〕を通じて規定される」とする「方法の逆説」を通じて、 主題化されている。本研究の仮説では、この「方法の逆説」は、 同時代の批評家であるピストリウスによる『道徳形而上学の基礎づけ』第一章への批判に応答するために主張された。この点を踏まえれば、『道徳形而上学の基礎づけ』第一章、ピストリウスの批判、『実践理性批判』「概念章」における「方法の逆説」がひとまとまりになって、カントの「正と善」論を形成することになる。本研究では、この仮説を証明し、「方法の逆説」の新解釈を提示したうえで、それを基礎としてカントにおける「正と善」を解明する。
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