研究課題
2018年度は、とくに「善に対する正の優位」という主題を中心に、研究を進めた。この研究の成果として、これまでに十分に注目されてこなかった「論争家としてのカント」像を描くことができた。まず、ロールズとサンデルへと着目することで、カントのなかに見出しうる「善に対する正の優位」に関しては、「善の優位」批判が焦点となるということを本研究は明らかにした。カントによる「善の優位」批判の内実は、以下の通りである。「倫理」に関してカントは『実践理性批判』において、目的論的倫理学は道徳法則の普遍妥当性を説明できないという点、目的論的倫理学は不可避的に論点先取の誤りを犯すという点において、ピストリウスによる「善の優位」の主張を批判する。さらに、「善の優位」を擁護しようとするガルヴェの試みなかで出された道徳と幸福との区別不可能性の主張を、「理性の事実」の教説を使ってカントは否定する。おもに『実践理性批判』のなかで展開される理性の事実論が、ガルヴェへの再批判という文脈でも展開されていることが、この考察によって明らかになった。以上が「倫理」における「善の優位」批判である。本研究はそれに加え、国民の幸福を実現するための抵抗にも専制主義にも反対する、というかたちで展開されるカントの法理論における「善の優位」批判をも分析した。以上の研究は、英語での口頭発表““The priority of the right over the good” reconsidered in a Kantian way”、論文「カントと徳の問題」という成果として結実した。そのほかに、『ドイツ哲学・思想事典』(2020年発行予定)における項目「『実践理性批判』」、「最高善」 を本研究実施年度中に執筆したが、それらも本研究課題の研究成果にもとづくものである。
平成30年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (1件)
『徳と政治――徳倫理と政治哲学の接点――』、晃洋書房
巻: ー ページ: 85‐104
Natur und Freiheit: Akten des XII. Internationalen Kant-Kongresses, Walter de Gruyter
巻: ー ページ: 2199‐2207