研究課題/領域番号 |
17H07166
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
宮本 雅也 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 助手 (20802086)
|
研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
|
キーワード | ジョン・ロールズ / 分配的正義 / 運の平等主義 / 社会的平等 / 関係論的平等主義 / 支配の不在としての自由 |
研究実績の概要 |
本研究は、ロールズ主義的な正義の理論を肯定的に再評価することを試みるものである。そのようなロールズ主義の再評価は、主として、現代の分配的正義論で有力とされている運の平等主義との対比を通じて行われる。 本年度の研究では、以下の二点に取り組んだ。 第一に、価値理論の理解を深化させた。この第一の研究は、類似の分野の研究者である井上彰の著作に対する書評活動などを通じて展開された。この研究の結果として、運の平等主義と社会的平等主義(関係論的平等主義)との対立の背景には、価値理論上の立場の相違が存在するという点が明らかになった。つまり、運の平等主義は、G.E.ムーアなどに見られる目的論的な価値の構想に親和的であるのに対して、社会的平等主義は、T.M.スキャンロンなどに見られる非目的論的な価値の構想に親和的である。この理解が正しいとすれば、平等(平等主義)の価値に対する理解のレベルで適切な立場を採るためには、価値理論上でもいずれの構想がより適切なのかを明らかにする必要があることになる。こうした第二の研究の成果は、『相関社会科学』第27号に所収の論文として公刊された。 第二に、ジョン・ロールズの正義の理論の特徴に対する適切な理解を前提に、自由論の観点からロールズ主義を位置づけた。自由論においては、自由を干渉の不在として理解する消極的自由と自由を支配の不在として理解する共和的自由とが対立している。この対立図式においては、リベラルなロールズの立場は消極的自由と親和的だとする理解が存在する。これに対して、報告者は、ロールズの理論構造を適切に理解するならば、むしろ共和的自由の方に親和的であると指摘した。共和的自由は社会的平等主義と相性がよいとみられるため、こうした洞察は平等主義的正義論にも影響を与えるだろう。この第二の研究の成果は、田上孝一編『支配の政治理論』に所収の論文として発表される予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書の予定から少し外れてはいるが、研究実績の概要でも書いたように、平等主義的正義論の展開に関連する研究を論文としてまとめることができている。今年度の研究は、ロールズ主義の分配的正義論を再構築するための土台を与えることになるだろう。また、責任の概念に注目して、ロールズ主義および社会的平等と運の平等主義との異同および優劣を論じる準備も進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
申請書の計画に従って研究を進める。運の平等主義と社会的平等主義との間の論争における最重要論点とみなすべき責任概念の研究を進める。より具体的には、すべての責任を個人に還元する運の平等主義が採る方法では扱いきれない集合体や集合的行為にかかわる責任の問題が存在し、適切な分配的正義の構想を提示するためにはそのような集合的責任の観点を取り入れる必要があると指摘する。この研究は、次年度の半ば頃には国内の学会で報告したうえで、必要な修正を加えて国内の査読誌に投稿する。
|