2018年度における研究課題は、メラネシア(南西太平洋)のサンゴ礁で独特の海上生活を営むアシ(海の民)と呼ばれる人々を対象とし、人間生活と自然環境の相互構成の歴史に注目する「歴史生態学」のアプローチをとることで、「人間-サンゴ礁関係の文化人類学」という新領域の開拓を目指すものであった。2018年8月、研究計画に従ってソロモン諸島で4週間の現地調査を行い、①アシにおけるサンゴ礁の民俗生態学、②メラネシアの歴史の中の人間-サンゴ礁関係、③アシの漁撈活動および慣習的海洋資源管理の歴史と現代的変容、④環境変動や自然災害との関わりにおける、アシの海上居住の歴史と現状、という研究主題に即して聞き取りと参与観察を行った。研究代表者にとって、マライタ島での現地調査は4年半ぶりのものであり、集中的な調査によって多数の斬新な知見を得ることができた。とくに、①アシにおけるサンゴ礁の民俗生態学については、これまでの調査ではまったく把握していなかった事実を知ることができ、これによって研究は大幅に進展した。この調査の知見は、2018年11月に第21回日本サンゴ礁学会で、同年12月にはEuropean Society for Oceanists 2018 Conferenceで口頭発表し、いずれも他の参加者から好評を得た。加えて、本研究の付随的な部分である、現代の人類学理論に関する文献研究の成果を、論文「人類学の存在論的転回―他者性のゆくえ」として雑誌『現代思想』に発表した。
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