最終年度に当たる本年度は事例分析の続きを行った上で、本研究課題のテーマである東南アジアの「残虐行為の予防ガバナンス」の構築に関する総括を行った。事例分析に関しては、以下の研究成果をあげることができた。前年度から継続して実施してきた残虐行為の予防におけるカンボジアの取り組みに関する事例分析では、カンボジアの研究者や実務家を対象に聞き取り調査を実施すると共に、カンボジア国内の平和研究所で公開セミナー(招待講演)を実施して研究成果を公開した。また、ロヒンギャ問題への外部アクターの対応に関する事例分析では、日本国際政治学会での報告を通じてフィードバックを得た上で、英語書籍(分担執筆)に収録する形で研究成果を公開した。 既存研究では、東南アジアには残虐犯罪と総称されるジェノサイドや民族浄化などの大規模な人権侵害から人々を保護することを目的とする規範的概念「保護する責任」を積極的に推進する行為主体(アクター)が存在しないとされ、東南アジアの「遅れ」が指摘されてきた。しかし、欧米地域では強制的な軍事介入を正当化するための「保護する責任」が推進されてきたのに対し、むしろ東南アジア地域では内政不干渉原則を重視する「保護する責任」が推進されている。現地の規範起業家として主要な役割を果たしているアクターは東南アジア地域の市民社会組織(研究機関やNGO)であり、国境を越えたネットワークを形成して「残虐行為の予防」を実現するための様々な活動を展開していることが明らかになった。
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