生体発散物質は、主たる室内空気汚染源であり、必要換気量を決める際の基とされている。筆者はこれまでに皮膚発散物質(皮膚ガス)が知覚空気質悪化の主原因であり皮脂の酸化物質が臭気の一要因であることを明らかにしている。そこで本研究は、良好な室内空気環境を省エネルギーで実現するための原理と手法に関して追究することを目的とし、2つの研究課題:「A. 皮膚由来の生体発散物質の原因臭気特性に関する実験」、「B. 数値シミュレーションによる効果的な知覚空気質改善手法の検討」を設けた。本年度は課題Aに関して以下に記す成果をあげた。 課題Aでは、温熱環境条件が皮膚ガス放散量に与える影響の把握を目的とした被験者実験を行い、異なる温熱環境条件下で採取した皮膚ガス放散量を比較した。 事前に、皮膚ガスを簡易に採取する方法についてサンプラーを試作し多数検討を行った。その結果、皮膚表面に小型のサンプラーを長時間設置し物質を採取するパッシブ法よりも、ポンプを用いて皮膚ガスの直接サンプリングを行うアクティブ法の方が、検出可能な量の皮膚ガスを簡易に採取することに適していることを確認した。そこで実験では、室温23℃/28℃条件とした実験室内で被験者に皮膚ガス採取用プローブを装着し、ポンプを用いたアクティブ法により皮膚ガスの直接サンプリングを行った。同時に実験室空気のサンプリングも行った。結果、両サンプリング方法においても、高温条件で皮膚由来と考えられる臭覚閾値の低い一部のアルデヒド物質(オクタナール、ノナナール、デカナール)の濃度が増加する結果が得られた。しかし、ブランク捕集方法に関して課題が見つかった。また、温度条件以外にも湿度や気流、着衣量等も実験結果を左右する重要な要因であるほか、人間の摂取物や皮膚疾患の有無、生活習慣や衛生状態等も体臭に影響を与える大きな要因であるため、適切な評価のためには継続調査が必要である。
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