研究課題/領域番号 |
17H07198
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研究機関 | 鶴見大学 |
研究代表者 |
小林 冴子 鶴見大学, 歯学部, 学部助手 (90804534)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | エナメル質 / エナメルタンパク / エナメル芽細胞 / TGF-β / アポトーシス |
研究実績の概要 |
本研究は、正常なエナメル質形成における生理活性物質の役割について注目し、特にトランスフォーミング成長因子ベータ(TGF-β)が形成途中のエナメル芽細胞へ及ぼすシグナルの解明を目指すものである。研究計画に基づいた実験により平成29年度は以下に記す結果を得た。 最初にHAT-7を用いて培養を開始したところ、安定的な条件を得ることが出来ず、本研究には不適当であった。そこで同じくエナメル芽細胞への分化能を有するエナメル上皮由来細胞株として、ラットではなくマウス切歯形成端から作成したmHAT9dを実験に用いたところ、安定して取扱うことが可能であった。このmHAT9dを培養し、定量PCRを行ったところ、TGF-βアイソフォームの遺伝子発現量はβ2 >β1> β3の順で高かった。また基質形成期エナメルタンパク関連遺伝子の発現はほとんど検出されず、成熟期エナメルタンパク関連遺伝子の発現が顕著に認められた。さらに興味深いことにTGF-β1およびTGF-β2は、それら遺伝子のほとんどの発現を上昇させ、TGF-β3は減少させることが分かった。 次にmHAT9dにTGF-βアイソフォーム添加した際の変化として、添加群では対照群に比べてmHAT9dの細胞増殖能が抑制的で、特にTGF-β3添加群で顕著に増殖速度が低下した。また、免疫染色ではTGF-βの添加によってmHAT9dのアポトーシスの割合が上昇し、特にTGF-β3添加群で最も高かった。 これらの結果は、TGF-βがアイソフォーム特異的に遺伝子発現、細胞増殖及びアポトーシス誘導を調整する可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していたHAT7が当実験系において不安定だったため、使用する細胞をmHAT9dに変更する必要があったが、その後の実験はおおむね研究計画に基づき順調に進展している。PCRを用いた細胞特性の同定検査では、成熟期に特異的に発現するエナメルタンパク質の発現を認めたため、細胞の分化よりも成熟期におけるアポトーシス誘導に注目した検証となった。アポトーシス誘導の検証について、細胞免疫染色を用いてカスパーゼ3を検出したが、全てのTGF-βアイソフォームで対照群と比べ優位に高い値を示した。またTGF-βがアイソフォーム特異的にエナメルタンパク質の発現調整に関与している可能性を示唆する結果を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
mHAT9dを用いた細胞免疫染色の結果よりアポトーシス誘導にTGF-βアイソフォームが関与している可能性を示す結果を得た。注目すべき点として、TGF-β1、2と比べTGF-β3でその数値が顕著に増加していた。しかしこれまでに行った実験では質的な検討に留まっており、その大小を比べるにはデータが不足している。そこで今後はこの結果をさらに裏打ちするために、アポトーシスの量的検証としてELISAを用いたssDNAの定量を追加実験として行うことを予定している。 上記追加実験の結果を考慮し、TGF-βアイソフォームによるアポトーシス誘導の可能性についてまとめ、学術大会において発表を行う予定である。
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