研究実績の概要 |
本研究は、正常なエナメル質形成における生理活性物質の役割について注目し、特にトランスフォーミング成長因子ベータ(TGF-β)が形成途中のエナメル芽細胞へ及ぼすシグナルの解明を目指すものである。研究計画に基づいた実験により平成30年度は以下に記す結果を得た。 マウス切歯形成端から作成したmHAT9dはエナメル質形成における成熟期前期の細胞である。この細胞を用いて定量PCRを行ったところ、TGF-βアイソフォームの遺伝子発現量はβ2 >β1> β3の順で高かった。また各アイソフォームの添加によって、種々のエナメルタンパク質の発現に影響を及ぼすことが分かった。特徴として、β1,2は細胞を成長・増殖させ、β3では細胞成長・増殖への影響は抑制的であった。我々は同細胞へ TGF-βアイソフォームをそれぞれ添加し、アポトーシス誘導について検証するために、カスパーゼ3を検出する方法と、DNA断片を定量する方法の二つの実験を行った。するとどちらの実験でもTGF-βアイソフォームの添加により無添加群と比較した優位なアポトーシス割合の上昇が認められた。それは特にTGF-β3の添加で顕著であった。 また、各TGF-βアイソフォームの局在を観察するために、マウス切歯の組織学的観察を行った。TGF-β1および2は基質形成期から移行期にかけて強い分布を認め、それと比較するとTGF-β3は分泌期から成熟期に分布している所見を得た。 以上の結果より、形成過程のマウスエナメル芽細胞において、成熟期ではTGF-β1, 2, 3が存在し、これらTGF-βアイソフォームによるエナメル芽細胞のアポトーシス誘導が起きていることが示唆された。生理活性物質に注目した研究は正常なエナメル質の形成メカニズムを知ることのみならず、歯周組織やエナメル質の再生医療への大きな足掛かりになると期待している。
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