本研究の目的は、日本において幼稚園草創期から現在に至るまで保育・幼児教育の現場に存在し続けている粘土遊びに焦点を当て、粘土遊びの実践がどのような考え方や価値観によって支えられているのかを明らかにすることである。粘土遊びの実践に潜む、子どもの表現に対する何らかの価値観を、保育者の語りとその背景社会にある言説という二つの側面から検討することにより、保育・幼児教育現場における粘土遊びの実践のあり方の問い直しをすると共に、粘土遊びを保育文化史的に考察したいと考える。 今年度の主な計画は、保育者へのインタビュー調査により、粘土遊びの実践方法、粘土遊びに感じている意義や困難さなどを明らかにすることであった。 インタビュー調査の結果、保育者は、粘土遊びに対して自由度の高さを感じており、それについて良さと難しさという両義的な意味づけをしていることがわかった。保育者は、粘土遊びの持つ自由度の高さを固定化されず常に揺らいでいるものとして認識しており、そこに保育実践上の多様な利点を見出していた。その一方、自由度の高さは保育者の困難感にもつながっており、自由度の高さを表現や創造性の発揮の機会として捉えきれずにいる保育者の様子がうかがえた。 また、自由遊びの中で行う粘土遊びと、主活動として行う粘土遊びでは、異なる意味づけをしていることもうかがえた。そして、保育者の語りからは、粘土遊びが園の中で慣習化され、固定化された実践様式が存在していること、保育者間で粘土遊びに関する情報や経験の共有はあまりなされていない状況が読み取れた。 これらのことから、明確なゴール設定のない、作品作りに限らない粘土遊びの場面において、子どもの表現への向き合い方に保育者は困難感や葛藤を抱いていることが示唆された。粘土遊びで求められる保育者の専門性やその在りようについて、今後検討していく必要があるだろう。
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