研究実績の概要 |
企業にとって新製品の発売は重要な戦略であるが,失敗のリスクを伴う。このため,企業は,消費者が製品をその属性に基づいて評価する(多属性意思決定) 前提で,発売前もしくは発売直後のデータを用いて消費者の採用を診断してきた。一方で,あらゆる機器が連携したり,まったく新しい技術の搭載したりと,消費者をとりまく製品は日々,変化を遂げている。こうした製品環境の変化を背景に, 本研究では,Gilboa and Schmeidler (1995, 2001)によって提唱された「事例ベース意思決定理論 Case-Based Decision Theory;CBDT」に適用することによって,複雑もしくは革新的な製品を採用するような,不確実な状況での消費者の意思決定を説明することを発想した。 これまでの研究では,革新的な製品の採用という状況下でCBDTが有用であることを理論的に実証した(郷, 2018)。一方で,CBDTは消費者の過去の経験と新製品との類似度評価のみがあれば推定できることから,新製品の発売前に新たに調査することなしに製品の採用を予測できるという利点を有する。期間中の研究では,購買行動データのみが得られた状況を想定し,発売前に消費者の新製品の採用を予測することを試みた。具体的には,家庭用洗濯洗剤に関するスキャン・パネルデータを用いて,実際に消費者の革新的な製品の採用時期を予測できるか検討した。革新的な製品,改良型製品に対し,発売前に情報が取得可能な世帯属性から説明する世帯属性(HHC)モデル,CBDTモデルのあてはまりを比較した。この結果,革新的な製品の場合にのみ,HHCモデルよりもCBDTモデルの方が予測力が高く,ある程度,先の採用時期も予測できることを確認した。以上のことから,CBDTを用いることで革新的な製品であっても発売前に予測が可能であることを実証した。
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