研究課題/領域番号 |
17H07213
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研究機関 | 朝日大学 |
研究代表者 |
鈴木 あゆみ 朝日大学, 歯学部, 助教 (10804643)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 妊娠期ストレス / 咀嚼運動 / 海馬 / ストレス脆弱脳 / HPA‐axis / GR |
研究実績の概要 |
1仔マウスの作製 妊娠期に拘束ストレスのみを負荷した母マウスから出生した仔マウスを「ストレス群(S)」、拘束ストレス負荷中に爪楊枝を噛ませた母体から出生した仔マウスを「ストレス/咀嚼群(S/C)」、ストレスを負荷せず通常の母体から出生した仔マウスを「コントロール群(C)」とした。 2 グルココルチコイド受容体(GR)の定量解析 GRの検索にはin situ hybridization法およびリアルタイムPCR法を用いた。in situ hybridyzation法による組織像において、SではGRmRNAの発現量が他の2群に比較して少ないように観察された。リアルタイムPCRを用いたGRmRNAの発現量は、CおよびS/Cに比較して、Sで有意に低い値を示した(p<0.01)。一方、CとS/Cとの間に有意な差は認められなかった。 今回の研究において、妊娠期ストレス母体から生まれた仔マウスでは海馬のGRが減少し,その結果海馬からHPA-axisへのネガティブフィードバック機構が十分に働かなくなりストレスに弱い脳が形成され、積極的な妊娠母体の咀嚼運動は海馬でのGRの発現を改善することによって新規ストレスに対する過敏性を和らげ、ストレスに強い脳の形成することが示された。これらの結果から、妊娠期ストレス中の母体の積極的な咀嚼運動が、仔マウスの脳の発達やストレス脆弱性の対処法として有用であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度実験は、まず妊娠DDYマウスの飼育、妊娠期拘束ストレス負荷および咀嚼運動を行い、それらから産まれた仔マウスを使用してグルココルチコイド受容体(GR)の定量解析を行った。GRmRNAをin situ hybridization法によって染色し、GR(Nr3c1)をリアルタイムPCR法によって定量解析を行った。今回の研究において、GRの変化を調べると妊娠期ストレスを受けた仔でGR発現量は減少していることがわかった。GRは脳全体に分布し、特に海馬のGR密度は高く、海馬のGRがグルココルチコイド(GC)と結合すると、HPA系の視床下部に対してネガティブフィードバックが働く。海馬はGCレベルの上昇に敏感である一方、GC移行が遷延すると、海馬GRとGRmRNAのダウンレギュレーションがおこり、仔のHPA系の負のフィードバック機構が障害される。しかし、咀嚼運動によって、拘束ストレスに刺激され低下するはずの海馬GRが、高値を示すと報告され、本実験で、妊娠期ストレス中に咀嚼運動をさせた母体から生まれた仔では海馬におけるGRmRNAの発現量が減少せず、GRのダウンレギュレーションが認められなかった。これらの所見から、妊娠期ストレス中に咀嚼運動を行うことで母体のHPA系の活性が低下しGCの分泌が抑えられ、その結果、仔が高濃度のGCに曝されることなく海馬機能が保たれると考えられる。つまり、仔へのGCによるプログラミングを防いでいることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の実験は引き続き実験マウスの作製を行い下記の実験および分析を進めていく。 仔の新規ストレス負荷によるストレス過敏反応の解析:仔のHPA axisが障害されると、仔の脳は新たなストレスに対し視床下部室傍核(PVN)で過剰な副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)を分泌するようになり、軽度なストレスに対しても過敏な反応を呈するストレス脆弱脳が形成される。そのため、出生仔に新規急性拘束ストレスを負荷し、視床下部室傍核におけるCRHmRNA発現をin situ hybridization法・qPCR法を用いて解析する。 データ解析:得られたデータはANOVA分析と多重比較分析を用いて統計学的有意性を解析する。 研究結果の総合的分析と発表:上記の研究結果を総合的に解析する。本研究結果を学会発表するとともにホームページ上で公開する。最終的な達成目標は、妊娠期の咀嚼運動によるストレス緩和を神経科学的に解明し、ストレス脆弱脳形成を防ぐための咀嚼運動の有用性を広く社会にアピールすることである。
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