本研究は、フランスが9か国の出身国との二国間協定を基盤として1973年から実施する「出身言語・文化教育(Enseignement des langues et des cultures d'origine:以下、ELCOとする)」プログラムに着目し、その制度と運用実態を解明するものである。このことを通して、国境を越えて移動する子どもの教育保障のひとつの方策として、受入国と出身国の二国間連携モデルを探ることを目的とした。2018年度は、入手した公文書等の分析とともに、以下の3つの聞き取り調査を実施することとした。 第一に、出身国側のELCOプログラムの関係者への調査である。この点については、イタリア領事館とポルトガル大使館のそれぞれの教育担当者に対して、2015年に引き続き聞き取り調査を実施し、この間の改革や実態の変化を把握することができた。特に、2016年に示された、プログラム名の改称をともなう改革に対する出身国による評価を把握できた点は重要である。 第二に、学校現場レベルでのELCOプログラムの関係者への調査である。この点については、プログラムを開講する小学校の校長2名に加え、これまで一度も調査ができていなかったセルビアの関係者(ELCO教員)に対して聞き取り調査を実施できた。学校現場レベルでのELCOプログラムの実態とともに、それに対する評価を把握することができた。 第三に、元受講者やその保護者を含む、ELCOプログラムの受講者側への調査である。この点については、調査を計画したものの、本年度は調査を実施することができなかった。一方、子どもにELCOプログラムを受講させている保護者が所属していると予測されたポルトガル出自の人びとのための社会団体に、2019年3月に聞き取り調査を実施予定であったが、急遽中止となった。第三の点については、今後の課題としたい。
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