前年度に引き続きフローベール作品における宗教知の歴史的考察に取り組んだ。必要に応じて草稿調査や資料収集を国内で行った。具体的な成果として、大学書林より対訳書『ギュスターヴ・フローベール 純な心』を刊行した。またJ・アズレらの先行研究から示唆を受け、『ブヴァールとペキュシェ』9章(宗教)における様々な合理主義の流れ(理神論・無神論、唯物論・スピリチュアリズム)がどのように描かれているかを探った。これと並行してフランスで提出した博士論文(フローベール作品における宗教的形象)の出版を視野に入れ、書誌情報のバージョンアップと全体の修正作業を行った。 当該年度のもう一つの主なプロジェクトとして、国際的なフローベール研究者(『聖アントワーヌの誘惑』を中心とする宗教知の専門)として知られるジゼル・セジャンジェール教授(パリ東大学)の招聘事業を行った。主な目的は、1)新たなフローベール全集に関する編集方針の打ち合わせ、2)立教大学と中京大学における公開講演会の開催である。立教大学(菅谷憲興研究室)では「歴史の思想における人種」と題して、A・ティエリ、ミシュレ、フローベールにおける人種概念が19世紀の歴史でいかなる位置を占めるかが主題となった。中京大学では「宗教と生物学」というテーマで、生物学者フェリックス・プーシェの「自然発生説」を、ミシュレとフローベールがそれぞれどのように受容し、作品でいかに描いたかという内容の講演が行われた。全集に関する打ち合わせでは、典拠とするテクストの確認と、いくつかの編集方針(すでに刊行されている全集との兼ね合い)について話し合いを行った。
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