カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)はカルバペネム系を含む多くの抗菌薬に耐性を示すことから、治療困難な感染症の原因として問題視されている。本研究は2014年から2016年に国内の単一医療施設で確認されたカルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)陽性症例72例(患者71名)の臨床的および微生物学的特徴を検討することを目的として行った。 患者71名の平均年齢は67.5歳、うち42名が男性だった。CPEの菌種としてはエンテロバクター・クロアカが44例、肺炎桿菌が28例を占めており、40例でCPEが呼吸器検体から検出されていた。また、検出前の90日以内に抗菌薬を投与されていた症例が64例あった。CPEによる感染症と判定された症例は41%で、その治療にはフルオロキノロン、アミノグリコシドなど、感受性のある非β-ラクタム薬が多用されていた。感染症と判定された症例は29例で、肺炎が13例、尿路感染症が7例、腹腔内感染症が5例を占め、その30日総死亡率は29%だった。全72株に対しゲノム解析を行ったところ、71株がIMP-1カルバペネマーゼ遺伝子を保有していた。シーケンスタイプとしてはエンテロバクター・クロアカ44株中29株がST78、肺炎桿菌28株中19株がST517と、それぞれの菌種において特定のシーケンスタイプが過半を占めていた。内10株について更に長断片ゲノム解析を合わせて行ったところ、6株でIMP-1遺伝子がプラスミドに、2株で染色体に、2株でプラスミドと染色体の双方に位置していることが明らかとなった。カルバペネマーゼ産生エンテロバクター・クロアカST78は国内を含め世界的に報告がある。一方、肺炎桿菌ST517はこれまで韓国から1株の登録があるのみである。今回多数のIMP-1産生肺炎桿菌ST517が同定されたことから、その病原性、他施設での検出状況などを今後検討したい。
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