本年度は、以下の2つの分析を行った。
第一は、「金融機関の健全性が新規開業企業への貸出に与える影響に関する実証分析」である。本研究の特徴の一つとして、先行研究が明らかにしていない「金融危機時における新規開業企業への貸出の影響」に着目している点が挙げられる。分析の結果、(1)健全性の高い金融機関は、金融危機時においてもそれ以外の時期と同様に、新規開業企業への貸出に慎重である、(2)健全性の高い金融機関の方が、金融危機時においても平時においても新規開業企業との貸出関係を継続しやすい、(3)新規開業以外の中小企業への貸出に関しては、健全性の高い金融機関の方が金融危機時により積極的に行う、の3点が明らかになった。これらの結果は、金融機関の健全性が中小企業への貸出に与える影響は、企業年齢と経済状況(金融危機時かどうか)に応じて変化することを示唆している。
第二は、「金融機関の健全性が中小企業とのリレーションシップ強化活動に与える影響に関する実証分析」である。本研究では、金融機関の健全性が中小企業への貸出に影響を与えるメカニズムの一端を明らかにすべく、金融機関のリレーションシップ強化活動に焦点を絞って分析している点に特徴がある。分析の結果、健全性の高い金融機関は、(1)リレーションシップ強化活動に積極的である、(2)リレーションシップ強化活動のうち、特に融資担当者に関する活動を強化している、(3)より早い時期からリレーションシップ強化活動(特に、融資担当者に関する活動)を開始している、の3点が明らかになった。以上の結果は、健全性の高い金融機関ほど中小企業とのリレーションシップ強化活動(特に、融資担当者に関する活動)を早い時期から開始できた結果として、当該企業への貸出を積極的に行うことができたことを示唆している。
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