本研究の目的は、帝国の植民地で発展したパインアップル産業に着目し、環太平洋を横断的に研究することで一国史では見通すことができない産業に携わる人やモノ、資本の移動を分析し、境界において人びとが経験をどのように再構成しながら生きてきたのか明らかにすることである。具体的には沖縄、台湾、フィリピンをはじめ東南アジアにおけるパイン産業に関わる人やモノ、資本の移動をたどり、人びとの経験やパインにまつわる表象の変化にはどのようなポリティクスが働いているのか明らかにすることを目的とする。 最終年度にあたる2018年度は、米軍占領期沖縄においてパインアップル産業に従事していた人びとがどのように農業技術を獲得してきたのか、ハワイをはじめとする環太平洋地域で実施された農業研修について調査研究をおこなった。具体的な研究実績の概要は以下の通りである。 1.USCAR(米国民政府)による研修プログラムとハワイにおける沖縄系移民ネットワークの活用:米軍占領期沖縄においては、USCARによる農業研修プログラムが数種類実施されていた。沖縄からハワイやフィリピン、台湾などへ研修生を派遣するプログラムのうち農業実習生のハワイ派遣事業においては、ハワイ沖縄人連合会が受入機関となりプログラムが進められていたことが明らかになった。 2.台湾における研修と台湾移民ネットワークの活用:米軍占領期沖縄において八重山はパイン産業の先進地であり、八重山のパイン缶詰会社はそれぞれ直営農場を有するなど栽培技術の研究にも熱心であった。最大手の琉球殖産株式会社は台湾における人脈を駆使し、パイン生産者や農場、工場職員を台湾へ派遣して多くの研修や視察を台湾でおこなってきたことが明らかとなった。
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