研究課題/領域番号 |
17H07242
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
山田 恭史 広島大学, 理学研究科, 研究員 (80802561)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | エコーロケーション / 生物ソナー / バイオミメティクス / シンプルデザインセンシング / ナビゲーション / 構成論的研究手法 / 空間学習メカニズム |
研究実績の概要 |
コウモリは,“1送信2受信器の超音波センシング”からは想像できない“大自由度な3次元飛行”を実現させている.本研究では,有限の計算資源しか持たないコウモリが,無限に変化する周囲環境へ“自身のナビゲーションを適応させる意思決定プロセス”を解き明かすものである.本研究の成果について以下に示す. 障害物環境下でコウモリに長時間の空間学習飛行を行わせ,その後,一部障害物を撤去する実験を行った.その結果,撤去直後の飛行において,コウモリが撤去された障害物を回避する傾向が見られた.これらの結果から,空間学習後のコウモリは,障害物の位置座標を記憶していることが決定的になった.さらに,チェーンとアクリル板を障害物として用いた場合のコウモリの障害物回避運動の比較から,障害物の奥側を見通せないアクリル板を回避するコウモリは,速度を落として飛行することが分かった.この結果から,コウモリは”かもしれない運転”ならぬ”かもしれない飛行”をしていることが分かった.これらの結果は,次年度のコウモリ模倣モデルを構築するうえで重要な知見を得られたといえる.学習機能と予測機能の生物が得意とする機能を記述した数理モデルを構築することで,生物ナビゲーションの本質について理解を深めることを目指す. また,これらの検証を行うためのツールとして,1送信2受信器の超音波センサを搭載した自律航行ドローンのの作成を行った.その結果,シミュレーター上で所定の動作を行うことが確認出来た.来年度には,野外実環境下での運用方法について,検討を行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究遂行により,コウモリ模倣モデルを作成するうえで基盤となる行動の計測結果を得ることが出来た.特に,コウモリが障害物の位置座標を記憶するのみならず,障害物の奥の状況を予測しながら飛行していることが分かった.これら空間記憶と予測ナビゲーションを併用した数理モデルを記述することが出来れば,生物の柔軟性を取り入れた人工ナビゲーションシステムの創造に大いに貢献できると考えられる.現在では,未知と既知の空間を飛行するコウモリの経路計画や心理的作用を考察し,未知と既知の空間ナビゲーションを検証するモデル式の構築に着手し始めている. また,本年度の研究遂行により,自律飛行ドローンのシステム構築に成功した.これにより,コウモリの3次元ナビゲーションプロセスについて検証を行う強力なツールとしての活用が期待できる. これら,コウモリの行動計測・数理モデリング・実機検証ツールの開発の3研究課題について一定の成果を上げられたことから,研究はおおむね順調に遂行していると判断した.現在では,自律走行車を用いてコウモリの評価検証を行った論文を執筆中である.
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今後の研究の推進方策 |
コウモリの空間学習飛行,および,危険予測ナビゲーション飛行の分析結果から,コウモリの意思決定プロセスと心理的作用を記述したナビゲーションモデルを構築する.さらに,構築した数理モデルの数値シミュレーションとコウモリの実際のナビゲーションとの比較から,行動原理の再考察を行い,モデルの修正を行う.これらモデルの修正を行うとともに,3次元ナビゲーションへの拡張方法についても検討を行う. また,野外実環境下でのドローンのテスト飛行を開始する.樹木や看板など,実環境下由来のエコー特性や,ドローンの騒音・風の影響などを考慮し,ドローンシステムの再修正を行う.これらのテスト飛行を完了した後,コウモリ模倣の2次元ナビゲーションモデルとして構築した数理モデルをドローンへ搭載する.ナビゲーションのリアルタイム性や,回避飛行パフォーマンスを評価し,3次元ナビゲーションへの拡張を検討する. 最終的には,コウモリとドローンパフォーマンスの比較から,本研究課題の達成度と今後の課題について検討する.
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