コウモリは,“1送信2受信器の超音波センシング”からは想像できない“大自由度な3次元飛行”を実現させている.本研究では,有限の計算資源しか持たないコウモリが,無限に変化する周囲環境へ“自身のナビゲーションを適応させる意思決定プロセス”を解き明かすものである.本研究の成果について以下に示す. 障害物環境下でコウモリに長時間の空間学習飛行を行わせ,その後,一部障害物を撤去する実験を行った.その結果,撤去直後の飛行において,コウモリが撤去された障害物を回避する傾向が見られた.これらの結果から,空間学習後のコウモリは,回避旋回運動を手続き的に記憶していることが示唆された. さらに,未知と既知の空間に対するコウモリの回避軌道・飛行速度・パルス放射方向の分析から,推察される行動原理に基づいて数理モデルを構築し,実際のコウモリの回避運動と比較検証を行った.その結果,コウモリは記憶した空間情報に基づいて,予測的に回避旋回運動を制御することで,既知空間での適応的な飛行を実現させていることが明らかになった. また,これらの検証を行うためのツールとして,1送信2受信器の超音波センサを搭載した自律航行ドローンのシステム構築を行った.この結果,野外環境下で静止中の人を回避するテスト飛行に成功した.本自律航行ドローンの運用により,3次元空間に最適化されたコウモリのナビゲーションに対する検証ツールとしての活用が期待できる. 本研究により,記憶した空間情報を運動へとフィードバックさせる行動の計測,および数理分析を遂行することが出来た.さらに,コウモリの3次元定位メカニズムの解明へと向けた新たな研究に着手することが出来た.今後,3次元空間ナビゲーションシステムを実装した自律航行ドローンによる空間適応ナビゲーションを実践することで,工学的にも有用なコウモリ模倣アルゴリズムとしての社会貢献を目指す.
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