本研究の目的は、先進国・後発国で進行する高齢化を念頭に、母親ペナルティ研究を、介護及び男性を視野に入れた総合的な「ケアペナルティ研究」として発展させることである。ここでのペナルティとは、子どもをもつ女性(または被介護者もつ人)の方が、もたない女性(または人)よりも賃金が低いことをいう。研究は、日本の調査期間が長い個票パネルデータを用いた次の2つの実証研究によって行う。初年度は、1)文献レビューによる分析枠組みの整理と分析方法の検討、2)使用するデータの利用申請を行った。このうち2)については、分析に用いる『21世紀成年者縦断調査』と『中高年者縦断調査』の厚生労働省への利用申請手続きが遅れており、実際の分析に着手できなかった。ただし、日本における母親ペナルティの程度とメカニズムについて、他の短期パネルデータで現状の把握と既存の仮説を検証した成果を、1)の成果に基づいて再構成し「現代日本におけるMotherhood Penaltyの検証」として論文にまとめ投稿した。その結果、査読付き論文として『フォーラム現代社会学』に掲載が決定した。また1)の成果を活かし、日本において計量的に母親ペナルティを検証する上で問題となるセレクション・バイアスを考慮した母親ペナルティの分析を複数の個票データを用いて行なった。その結果は、第64回数理社会学会大会と第90回日本社会学会大会で報告している。これらの報告を踏まえた論文はすでに執筆し、学術雑誌に投稿している。 初年度の研究を通じ、日本では子ども1人あたり約4%の母親ペナルティが生じているが、子どもの数とペナルティの大きさは線形の関係ではなく、子どもが2人いるとよりペナルティが大きいことが明らかになった。また、欧米の研究で提示されてきた仮説は日本のケースにはそのまま適用できないことが明らかになった。
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