研究実績の概要 |
本研究の目的は、軟組織の圧痛刺激に対する応答の評価法として近年注目されている“エントロピー”の概念を口腔粘膜に応用し、義歯治療の効果を予見する ための基本的情報を客観的根拠に基づいて得ることである。 本年度は、コントロール群となる健常被験者の顎堤粘膜の触覚・圧痛閾値の測定を行った。測定はVon Freyフィラメント(OptiHair2, MARSTOCK Nervtest, Germany)を用いて、下顎は前歯部、小臼歯部そして大臼歯部の頬 側・口蓋/舌側の基準点計6点において、上顎は下顎と同様の基準点6点に加え、口蓋5点を加えた基準点計11点についてMethod of Limits法にてランダムな順序で行った。 現時点で、無歯顎患者12名(EP群、男性4名、女性8名、平均年齢80±8歳)と健常被験者12名(コントロール群、男性4名、女性8名、平均年齢30±4歳)のデータ分析を終了した。分析のパラメーターは圧痛検出閾値(Tactile Detection Threshold; TDT)、圧痛閾値(Pain Threshold; PT)、およびPTとTDTの差(PT-TDT)の3つとし、エントロピー 分析を行い、Student's t-testにて比較した。その結果、EP群のPT-TDT値のエントロピーは、コントロール群よりも有意に低かった(EP: 1.70 ± 0.06, コントロール: 1.86 ± 0.04, P = 0.04)。 本研究結果で示されたEP群の有意に低いPT-TDT値のエントロピーにより、無歯顎患者の口腔粘膜は痛みに対してより敏感であるという特徴が示唆された。このことから、義歯装着患者が訴える疼痛の原因は不十分な義歯調整だけではなく、痛みの感度の鋭敏化にもよる可能性が示された。
|