3種の日本産ヤモリ、ニホンヤモリ、ミナミヤモリ、オキナワヤモリは近縁種でありながら異なる性決定様式をもつ。ニホンヤモリとオキナワヤモリでは孵卵温度によって性が決定されるのに対して、ミナミヤモリは雌ヘテロ型(ZZ/ZW型)の性染色体をもち遺伝的に性が決定される。この事からミナミヤモリの系統において遺伝性決定への変遷が起きたと予想される。ミナミヤモリの性染色体には性分化関連遺伝子の一つであるDMRT1が位置する。DMRT1の機能は脊椎動物で保存されており、DMRT1が高発現すると未分化生殖腺が精巣へと分化する。DMRT1遺伝子について複数のプライマーペアを設計し、沖縄本島産のミナミヤモリ雄4個体、雌6個体のゲノムDNAに対してPCRを行い、増幅産物の塩基配列を解読した。その結果、ZとWホモログ間において第3エクソンに塩基置換が同定された。沖縄本島産のミナミヤモリではZとW染色体間で形態的な分化が見られることから、ZとW染色体の形態的な分化とDMRT1のZとWホモログ間の分化のどちらが先に起きたのか断定できない。そこで石垣島産のミナミヤモリ雄2個体、雌1個体を入手した。石垣島産の個体群ではZとW染色体の形態的分化が生じていない。石垣島産個体のゲノムDNAに対してPCRを行い、増幅産物の塩基配列を解読した結果、沖縄本島産個体と同様に、ZとWホモログ間において第3エクソンに塩基置換が同定された。塩基置換の位置とパターンが2個体群間で保存されていることから、両個体群の共通祖先においてDMRT1の対立遺伝子間で配列が分化したことでZとW染色体への分化が起こり、ミナミヤモリの遺伝性決定が確立されたと推測された。また、各島に個体群が定着した後に、沖縄本島の個体群ではW染色体に構造変化が生じたと推定された。この事から南西諸島の各島々の個体群で独立して性染色体の分化が進んだことが示唆された。
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