研究課題/領域番号 |
17H07282
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研究機関 | 神戸薬科大学 |
研究代表者 |
溝口 泰司 神戸薬科大学, 薬学部, 研究員 (40806882)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 制御性T細胞 / CCR4 / 紫外線照射 / 心筋梗塞 |
研究実績の概要 |
心筋梗塞(MI)モデルは、野生型マウスの冠動脈(左前下行枝)を結紮し作成した。紫外線(UVB)照射は、冠動脈結紮前に週2回,3kJ/m2をマウスの背部の皮膚に8週齢より2週間行った。 脾臓、皮膚所属リンパ節、心臓所属リンパ節といったリンパ組織や血液を用いて、UVB照射によるMI後の免疫修飾を経時的にフローサイトメトリーにより評価した。その結果、UVB照射は、MI1, 4, 7日後のいずれの時期においても、脾臓以外の組織で制御性T細胞(Treg)およびケモカイン受容体(CCR)4+Tregを著増させることがわかった。 MIマウス(UVB照射なし)とsham(偽手術)マウスを比較したところ、梗塞巣ではMI4日後にTregの特異的マーカーであるFoxp3の上昇、さらにCCR4およびそのリガンドのCCL17/22の上昇を認めた。UVBを照射すると、この梗塞巣におけるFoxp3の発現上昇がより顕著になることがわかった。また、UVB照射群ではMI7日後に、非照射群と比較して抗炎症性(M2)マクロファージマーカーの有意な上昇も認められた。 MI後の心筋リモデリングを評価するために、MI28日後の梗塞巣をマッソントリクロム染色により組織学的に評価した。その結果、UVB照射群と非照射群では梗塞サイズに差はなかったが、左室内腔の面積はUVB照射群で有意に小さく、UVB照射は有害な心筋リモデリングを抑制することが示唆された。 冠動脈結紮の前日から2週間、1日おきにCCR4アンタゴニストを全身投与すると、UVB照射による予後改善作用が消失した。この結果は、UVB照射により誘導されるCCR4+TregがMI後の予後改善に重要であることを示す結果である。現在、梗塞巣に遊走したCCR4+Tregが、M2マクロファージの誘導を介してMI後の炎症を適切に制御し、心筋リモデリングを抑制する可能性を考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究計画に基づき、リンパ組織や血液を用いて、UVB照射によるMI後の免疫応答の変化を経時的にフローサイトメトリーにより解析を行い、予備実験と同様にUVB照射は様々な組織でTreg, CCR4+Tregを増加させるという結果を得ることができた。しかし、梗塞巣における免疫応答の変化はフローサイトメトリーを用いてうまく評価できなかった。梗塞巣より回収できる細胞数が非常に少なく、コラゲナーぜ処理に伴うCD4, CD3の抗原性の低下が原因であると考えている。今後は、「今後の研究の推進方策」に示す方法を用いる予定であり、当初の予定通り梗塞巣の免疫応答の変化を細胞レベルで評価できると考えている。 UVB照射により誘導されるCCR4+TregがMI後の予後の改善に重要であると考えてきた。当初の仮説通り、CCR4アンタゴニストの投与はUVB照射による予後改善効果を消失させるという結果を得ることができた。したがって、今後も当初の計画通り、CCR4アンタゴニスト投与がUVB照射によるMI後の免疫修飾を消失させるかどうかを検討する実験を進めることができる。 今後の研究計画として、色変換蛍光タンパク質発現マウスであるカエデマウスを用いた実験を予定している。カエデマウスは紫色の光を照射すると緑色から赤色に変色する光蛍光変換タンパク質を発現しているマウスであり、皮膚の免疫細胞の体内動態の評価に使用することができる。カエデマウスは理研よりすでにご供与いただいており、交配は順調に進んでいる。また、カエデマウスを用いた予備実験も行っており、現在までにUVB照射は皮膚の免疫細胞の皮膚所属リンパ節や脾臓への遊走を促進することを確認している。したがって、今後カエデマウスを用いた実験を円滑に進めていくことができると考えている。 以上より、現在までの進捗状況は概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究経過により、UVB照射はCCR4+Tregを誘導することでMI後の予後を改善させる可能性が示唆されている。今後は以下の研究計画(1)によりUVB照射により生じる梗塞巣における免疫応答の変化を、研究計画(2)によりCCR4+Tregの体内動態を含めたMI後の役割を詳細に検討していく。 (1) 梗塞巣における免疫細胞の評価 これまでは主に定量的PCR法により梗塞巣での免疫応答を遺伝子の発現レベルで評価してきた。当初は、次のステップとしてフローサイトメトリーを用いて梗塞巣における免疫細胞を細胞レベルで評価する予定にしていた。しかし、梗塞巣から回収される免疫細胞は非常に少数であり、コラゲナーぜ処理によりCD4やCD3の抗原性が低下することからフローサイトメトリーでは評価が難しいことがわかった。代替案として、CD4, TregのマーカーであるFoxp3, マクロファージマーカーであるCD68, M2マクロファージマーカーであるCD206などの蛍光免疫染色を用いて免疫細胞の評価を行っていく予定である。 (2) CCR4+TregのMI後の炎症制御における役割の検討 これまでに、CCR4阻害剤の投与はUVB照射による予後改善作用が消失することが確認された。続いて、梗塞巣でCCR4阻害剤の投与によりUVB照射より見られたM2マクローファージの誘導といった免疫変化が消失するかを確認する。さらに、UVB照射により皮膚で誘導されるTregの体内での細胞動態を評価するために、UVBなどの紫光で細胞を標識できる色変換蛍光タンパク質発現マウスのカエデマウスを用いる。このマウスの皮膚の免疫細胞を冠動脈結紮1週間前に紫光で赤色に標識し、UVB照射により誘導されたTregが心臓所属リンパ節や梗塞巣に遊走しているかをMI後経時的に評価する予定である。
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