研究課題/領域番号 |
17H07292
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研究機関 | 四国大学 |
研究代表者 |
田中 智子 四国大学, 文学部, 助教 (00807422)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 古今和歌六帖 / 万葉集 / 藤原実方 / 源氏物語 |
研究実績の概要 |
平成29年度には『古今和歌六帖』の万葉歌の一覧を作成し、同集における万葉歌の位置づけに再検討を加えた(なおその際、中西進『古今六帖の万葉歌』に学ぶところが大きかったが、万葉歌の認定は申請者なりの基準に基づくものに改めた)。そのうえで、特に、それらの万葉歌が『古今和歌六帖』以降の諸歌集においていかに享受されたかという問題に検討を加えた。 平成29年度の研究成果として、論文「古今和歌六帖と実方集――古今和歌六帖の享受の様相――」がある。本論文は『古今和歌六帖』がその成立後いかに流布したかという問題を、『実方集』を題材にとって考察したものである。本論文では、『古今和歌六帖』が十世紀末頃から十一世紀初頭にかけての時期には既に広く流布し、当時の人々にとっていわば「和歌の常識・教養」の基盤を成すような歌集として重用されたとみられることを指摘した。そのなかで、万葉歌のなかに、『万葉集』そのものではなく『古今和歌六帖』を介して後世に享受されたものが少なくないことをも明らかにした。同論文では、『実方集』所載歌に引歌された『古今和歌六帖』歌が、『和泉式部集』や『源氏物語』にも引かれている場合が散見することをも指摘した。これは『古今和歌六帖』という歌集の文学史上の意義の一端を示すこととして看過できないことであると考える。 また平成29年度には上記の研究と並行して、『古今和歌六帖』における立項の方法に『万葉集』がいかに影響しているかという問題についても考察を進めており、申請者なりの見通しを得ている。その成果は、次年度に論文化したいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、『古今和歌六帖』の万葉歌の本文研究を進めることで、『古今和歌六帖』の本文の古態を探るとともに『万葉集』の天暦古点の実相を考究することを目指していた。その万葉歌の本文検討の作業に基づき、『古今和歌六帖』の万葉歌の後世における享受の様相を明らかにしたのが、先述の論文「古今和歌六帖と実方集――古今和歌六帖の享受の様相――」である。 なお、上記の『古今和歌六帖』の万葉歌研究を進めるうちに、『古今和歌六帖』における万葉歌の分類基準(いかなる部・項目に和歌を分類するかという基準)と物名歌の分類基準とが有機的な関係を有していると考えるに至った。そこで研究期間の後半には、万葉歌研究に加えて物名歌研究にも主に取り組むようになった。上記の『古今和歌六帖』の物名歌に関する考察結果をまとめた論文は平成30年度に雑誌に掲載予定であり、『古今和歌六帖』の和歌史における位置づけを考究した論としての意義を有するものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度も引き続き、『古今和歌六帖』の万葉歌について考察を進める予定である。平成29年度に作成した万葉歌の一覧表に基づき分析を行い、『古今和歌六帖』を介して万葉歌が『源氏物語』・『枕草子』等に享受されていった様相を明らかにしたい。そうした個々の作品への影響をつぶさにみてゆくことを通じて、『古今和歌六帖』の万葉歌の性格を見定めたいと考える。 また平成30年度には、『古今和歌六帖』における立項の方法に『万葉集』がいかに影響しているかという問題についても論文を執筆する予定である。当該の問題については平成29年度時点に考察を進めており、既に申請者なりの見通しを得ている。その見通しに基づき、年度の前半には論文を完成させることを目指す。『古今和歌六帖』における項目の立て方・和歌の分類の方法という問題は、同集の本質に関わる極めて重要な問題であり、本論文では同集の文学史上の意義にまで迫ることができればと考えている。
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