平成30年度には、万葉歌が『古今和歌六帖』を介して他の文学作品に享受された様相を明らかにするべく研究を行った。特に『源氏物語』について、「面影」の語を中心に考察を進めた。「面影」は『万葉集』の相聞歌に特徴的な語であったが、三代集の歌には「面影」を詠んだ歌はほとんど採られていない。その一方で『古今和歌六帖』には「面影」が項目として立てられており、そこには万葉相聞歌を中心とする恋歌が集成されている。『源氏物語』でも、特に散文において、恋情を表現する文脈で「面影」の語が用いられているが、それは『古今和歌六帖』「面影」項のありかたから少なからぬ影響を受けたものとみられる。なお、本研究で取り上げた「面影」は、『古今和歌六帖』による万葉歌享受の一例に過ぎない。他にも『古今和歌六帖』が万葉歌特有の語彙や歌の発想に基づき項目を立て、それを『源氏物語』が受容したケースは少なくなかったと考えられる。以上の考察内容をもとに、『古今和歌六帖』から『源氏物語』への影響という観点から論文をまとめた(「『古今和歌六帖』第四帖《恋》から『源氏物語』へ――〈面影〉項を中心に――」高木和子編『源氏物語の諸相』、2019年10月刊行予定、青簡舎)。 さらに、本年度には、昨年度作成した『古今和歌六帖』の万葉歌の一覧に基づき、『古今和歌六帖』と『万葉集』の和歌分類の方法についての比較検討を行った。その結果、『古今和歌六帖』が『万葉集』を直接の撰集資料としたと思しいこと、また『万葉集』巻十や巻十一の分類に倣うところがあったとみられることなどの見通しを得た。その成果は、本研究費による研究期間終了後とはなるが、2019年中に論文として公表する予定である。
|