我が国において、メンタルヘルス上の理由により休業又退職する労働者は増加しており、社会経済的損失も大きく、休業者の軽減は社会的急務である。発達障害の特性を持つが、発達歴に目立った問題がなく、児童期早期に症状が確認/推定できない、あるいは児童期には症状が推定されても現症が診断基準を満たさない健常勤労者が、未診断のまま成人となってから、社会不適応に直面し、二次的に不安・抑うつなどの症状を来すケースが問題となっている。こういったケースは、対人コミュニケーションの問題から休業を繰り返すケースが多く、二次的に生じた不安・抑うつなどの症状だけに治療の焦点を当てても根本的な解決にならない。社会への適応力を向上させたり、人付き合いの仕方や周囲との関係性の持ち方を理解するなど、社会的機能の改善をはかることが重要であると考える。対人関係、日常生活機能、就労などの社会的機能には、神経認知機能や社会認知機能が強く関連しており、自閉スペクトラム症や統合失調症の患者でこの能力が障害されていることは既に報告されている。しかし、発達障害の特性を持つ健常勤労者の神経認知機能及び社会認知機能との関連に着目した知見はこれまでに得られておらず、今回の研究では、発達障害の特性を持つ健常勤労者を対象とし、その傾向の強さと神経認知機能や社会認知機能、社会適応度、ストレス評価との関連を多角的に検証する。対人コミュニケーションの問題から社会不適応を起こしやすい健常勤労者への心理社会的トレーニングの応用や周囲のサポートを可能とし、精神疾患を未然に防ぐための一次予防に貢献すると考える。
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