研究課題/領域番号 |
17H07328
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
秋山 光市郎 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 博士研究員 (10800675)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | バクテリアコンデンシン / 大腸菌 / 染色体 / rDNA / 部位特異的光架橋実験 |
研究実績の概要 |
本研究では、(1)rDNAの転写と共役したMukBの染色体への結合モデルの検証、(2)トポロジカル結合の分子機構の解明を通して、コンデンシンが染色体に「いつ、どこで、どのように」結合するのかを明らかにすることを目標とする。(2)トポロジカル結合の分子機構の解明では、(A)主なDNA結合部位であるヘッドドメインに変異を導入したMukBを用いたゲルシフトアッセイ、(B)部位特異的光架橋法を用いたMukBとDNAの相互作用の検出、という2通りのアプローチによってバクテリアコンデンシンMukBの一本鎖DNA結合部位及び二本鎖DNA結合領域を同定することを目指す。2017年度はこれらの実験に本格的に取り組むための準備を行った。 MukBの正電荷とDNAの負電荷による電気的な相互作用を想定し、正電荷を持つ残基を、負電荷を持つ残基或いは電気的に中性な残基に置換した変異体を計22種類作製し、精製した。2018年度はこれらの精製タンパク質のDNA結合能を評価する。変異型MukBを用いた実験に先立ち、野生型MukBを用いてゲルシフトアッセイ(電気泳動法を利用したDNA結合実験)を実施した。その際、MukBが「どのようにDNAと結合するのかを調べる」という本研究の目的を達成する為にはゲルシフトアッセイだけでは不完全であると考えた。そこでこの問題を解決すべく、MukBによるDNA結合の観察に原子間力顕微鏡を用いることを計画した。2017年度は原子間力顕微鏡の取り扱い手法を習得した。 これと並行して、部位特異的光架橋実験の実施のための環境を整えた。この実験の肝となる標的タンパク質への非天然アミノ酸アナログpBPAの導入が成功していることをウエスタンブロッティングにより確認した。2018年度はMukBヘッドドメインにpBPAを導入し、DNAとの相互作用の検出を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の当初計画は、本研究の遂行に必要な材料を作製し、実験系を構築することであった。MukB変異体の作製と精製が完了したこと、部位特異的光架橋実験に必要な機器等を所属研究室に導入したことから、おおむね順調に進展していると言える。以下では具体的な進捗状況を述べる。 DNAの負電荷とMukBの正電荷による電気的な相互作用を想定し、ヘッドドメイン内の正電荷を帯びた側鎖を持つアミノ酸残基に変異を導入した。ホモログ間でよく保存された11箇所のリジン残基及びアルギニン残基を対象とし、負電荷を帯びた側鎖を持つグルタミン酸残基、又は電気的に中性な側鎖を持つグルタミン残基に置換した変異体を計22種類作製した。これらの変異体をプラスミドから過剰発現し、ヒスチジンタグを用いて精製した。また、変異体によるDNA結合の評価法として、従来計画していたゲルシフトアッセイ以外に、原子間力顕微鏡を用いた実験を新たに計画に加えた。原子間力顕微鏡の取り扱い手法は速やかに習得した。 部位特異的光架橋法では、「標的タンパク質の任意のアミノ酸残基への非天然アミノ酸アナログpBPAの導入」、「紫外光照射によるpBPAと近接因子との架橋形成」の2点が実験系を確立する上での鍵となる。紫外光照射装置B100-APを購入することで実験に必要な設備を整えた。モデル実験系を用いることで、標的タンパク質のpBPAの導入と紫外光照射による架橋形成がいずれも成功していることウエスタンブロッティング法により確認した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通りに研究を進める。まず、(1)rDNAの転写と共役したMukBの染色体への結合モデルの検証について述べる。rDNA配列を持つプラスミドDNAにRNAポリメラーゼを添加することでin vitroでの転写を行い、そこにMukBを添加しローディングさせる。転写反応の有無によるローディング効率を比較することで、rDNA領域がMukBのローディングサイトであるという仮説を検証する。より単純な実験系として、一部分を強制的に開裂させることで転写中のrDNA領域を模したDNAを基質として用いることも試みる。次に、(2)トポロジカル結合の分子機構の解明について述べる。変異型MukBによる一本鎖DNA結合及び二本鎖DNA結合を、ゲルシフトアッセイ法(電気泳動法)及び原子間力顕微鏡を用いた実験により評価する。これと並行して、部位特異的光架橋法によるMukBのDNA結合部位の同定を行う。この方法では、pBPAを導入したMukBを精製し、オリゴDNA(一本鎖又は二本鎖)と混合した後に紫外光を照射し架橋を形成させる。架橋形成はウエスタンブロッティングで確認する。これらの実験により、一本鎖DNAとの結合に必要な部位と二本鎖DNAとの結合に必要な部位をそれぞれアミノ酸残基レベルで同定する。
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