政治経済情勢の悪化などから自国通貨の価値が不安定であるとき、人びとはいかにして経済を維持するのだろうか。そのとき人びとは、どういった手段でモノの価値を計量し、交換をおこない、財産を管理するのだろうか。 本研究は、南部アフリカ都市部における人びとの経済活動について、おもにその会計方法(モノの計量、価値の数量化、財産状況の管理)に着目しながら、人類学的調査・研究をおこない、その結果を一般的な企業や組織で用いられる会計基準と比較し、人びとの独自の会計方法を明らかにする。 本年度はおもに、2018年8月~9月、レソト王国におけるジンバブエ人移民の経済活動についてフィールド調査を実施した。ジンバブエは2000年以降、政治経済情勢が悪化し、人口の国外流出がつづいている。レソトにも相当のジンバブエ人が移住し、大学などのフォーマルセクターで仕事をするほか、インフォーマルな経済活動に従事する者も多い。インフォーマルな経済活動で際立つのは行商である。ホウキやモップなど、隣国のヨハネスブルグで仕入れたさまざまな商品を、肩や背にかつぎ都市部や農村部で売り歩くジンバブエ人行商人は、地元レソトの人びとのあいだでBo Mokhotsi(「友だち」)と呼ばれ、その存在が広く知られている。 本年度のフィールドワークでは、このジンバブエ人行商人が多く住む地区を探し、商売の概要を調査した。その結果、彼らの商売は、(1) 商品を掛売りにすること、(2) 掛取引については帳簿に記録し管理すること、(3) 代金の支払い遅延をした顧客にたいする罰則はとくになく、基本的には行商人が労力、費用、時間をかけて未回収金を回収することがわかった。 とくに(3)については、たとえばクレジットカードの支払い遅延のペナルティと比較すると対照的な特徴である。彼らはなぜこのような商売方法をするのか。今後の調査で解明すべき課題である。
|